「・・・・・・・」
言葉を失う、とは正にこの状況のことか。
固まってしまった大人二人をおいて、興奮したバットは続ける。
「そんな時あるおっさんから聞いたんだ。おとつい隣の村で交換した、
あるものを食べたら力がみなぎって元気になるって!」
そう、それは〔ペルをつよくさせよう大作戦〕の目標のもと、
数々の試みを試し、しかし成果を挙げられずに行き詰っていたときのことだ。
一人の村人が元気のないバットをみて、おしえてくれたのだ。
ある秘密食材の存在を。
それは今までバットもリンも見たことがないものだった。
かさかさの皮に包まれた、小さな滴のような形のモノ。
決しておいしそうにも見えないソレを指してその男はこういったのだ。
「これを食べりゃー、ファイト一発。
朝から夜まで元気もりもりだぜ!?」
大切そうにソレをしまったその男にバットはすがりついたのだ。
自分にもくれ、と。
しかし、その男の答えはそっけないものだった。
「お子様が必要なもんじゃねーよ」
相手にしてくれない男に痺れを切らし、今度はマミヤに交渉したのだ。
少しソレを分けてくれ、と。
しかし、マミヤの返事も同様にそっけないもので、果てにはこう宣告したのだ。
「子供がいるようなものではない、他の食べ物で充分に栄養は補えるのだ」と。
「みそこなったぜ、マミヤさん。自分たちは食ってもガキにはやれねーってわけかよ。
大人って汚ねーぜ!」
そうして憤慨したバットは、リンの制止もふりきって、
食料庫にやってきたというわけなのだ。
『なんだ、そんなことのために。
そいつがなんだかは知らんが、犬っころ一匹のメシを盗るために
こんなに騒いでるのか・・・?』
・・・つまらん、実につまらん。が・・・。
隣を見ると、あきれ返ったマミヤの顔。
いつもの凛とした雰囲気はなく、無防備な表情を浮かべ驚いている。
そして正面には、ふくれっ面のバットにおろおろとしたリン。
大人顔負けの運転テクをもつ少年とその良き相棒のしっかりものの少女。
初めて見る彼らのこんな表情・・・。
そんな光景に己の気が一気に緩むのを感じた。
『これが平和というものなのかも知れんな・・・』
些細な子供の行動に振り回されている己たち。
しかもそれが、子犬一匹のために。
急に笑いがこみ上げてきた。
悪くない、と心の中で呟きながら。
久方ぶりの心からの笑い。
こんなに愉快なのは一体いつぶりだろう。
笑いを抑える努力をやめ、声に出して笑い出すと、周囲の驚きを感じとりつつも、
レイは腹を抱えて笑い転げ続けた。