ここは村はずれ、人もそれほど立ち寄らない場所だ。
気配は二つ。懸命に足跡を消しているが、
南斗水鳥拳伝承者にとって、この程度の気配を感じるのは非常にたやすいことだった。
「侵入者か...?」
さらに意識を凝らす。
と、そのとき彼の耳に子供の声が飛び込んできた。
「だから、バット、やめましょうよー。」
「うるせえ、リン。だったらお前はついてくんなよ!」
「でもそんなことしたらマミヤさんにも迷惑をかけちゃうよ、戻りましょう」
「だーかーらー、うっせえよ。じゃあ、お前はこのままでいいのかよっ。」
「
で、でも。 もう一度お願いしてみましょうよ、
ね?マミヤさんもきっと分かってくれるから。事情を話せば...」
「けっ、無駄だよ。無駄。こうなったら強行突破しかないぜ..」
「強行突破とはおだやかでないな?」
目の前に現れた長身の男の姿に二人は飛び上がって驚いた。
「
な、な、なんでここにいるんだよ、レイ?」
「いや、なにか声が聞こえてな、それよりもどうした二人とも。こんな場所で」
「ちょうど良かった、レイ。バットを止めて。食料庫に忍び込むって言って聞かないのよ!」
「あ、このバカ...。」
「食料庫?」
レイはその言葉を耳にし、秀麗な眉を上げた。
そう、ここは人の近寄らない場所、
しかしこの先にはこの村で収穫された、又近隣の村と交易で得た
食料を豊富に保管している倉庫がある。
二人に目を向けると、ばつが悪そうなバットに、どこか困ったようなリン。
この子供たちも、ケンシロウと同様に知り合った日は
決して長いものではないが、大体の性格は把握している。
「
なるほどな、食料庫に忍び込んで食料をちょろまかそうという訳か...。」
「ちょろまかそうなんて、人聞きの悪い。そんなことでなく俺は純粋にだなー」
「ほう、それならば、何だというのだ?」
「・・・・・・・・・・」
黙ってしまったバットに、レイはさらに言葉を続ける。
「
見つからんうちに早く戻ることだ。まあ、まだ食いたい盛りの子供だ。
腹が減るのは分かるが、この村では他に比べて腹いっぱい食えるはずだぞ。
食い意地も大概にしておくんだな。
どうしても腹がすいてたまらないというならマミヤに交渉してみろ。」
(子供にかなり甘いところがあるからな。)と心の中で呟く。
「違う!違うよ、そんなんじゃない、俺は...。
それにマミヤさんに言っても分かってもらえないよ!」
バットの台詞にレイが首を傾けたとき、後ろから高い声が聞こえた。
「私が何ですって?」
そこに立っていたのは、女ながらこの村のリーダーである、マミヤであった。