あんな風に笑うこともあるんだな。
初めてみるだろう彼女の笑顔に、レイは瞬間目を奪われた。
瞬間 レイVer.1
世紀末、ある小さな村。
この村では人々がこの厳しい世紀末の世を、
度重なる野党の襲撃にも耐え力強く生きている。
その村人の表情もどこか誇らしげで、生き生きとしていた。
妹を探す旅の途中、幾多の町や村を見てきたレイにとって、
この村ほど生命にあふれ、
活力に満ちた場所は知らない。
ただ思う。ここは世紀末のオアシスなのだ、と。
村はずれ。
レイは石造りの崩れた壁にその背を預け、
この村についてからの出来事に思いをめぐらせた。
思えば七つの傷を持つ男を捜すついでに立ち寄ったこの村で、
ケンシロウ達と出会い、そして妹、アイリとの再会を果たせたことは
非常に幸運だった。
実際己でさえ、アイリとの再会はもう叶わぬものと半分あきらめていた。
しかし、ケンシロウのお陰で、己は妹を野党の手から取り戻すことができ、
この平和な村でアイリも本来の笑顔を取り戻し始めている。
「全ては奴のお陰か...」
しかし、その恩人といえば、妹をさらった男に心当たりがあるようで、
アイリの話を聞いてからすぐに連れの二人の子供の世話を自分に任せて
どこかに旅立っていった。
おそらくその男と決着を付けに行くのであろう
確たる理由もなくレイは思う。
付いて行きたくなかったのかといえば、答えはNOだ。
自分の手で奴を八つ裂きにしたいと今でもそう思う。
結婚前、幸せに満ちた両親を殺し、最愛の妹アイリを奪い去った奴。
死に際の両親の姿を思い浮かべるだけで腹の中が煮えくりかえりそうだ。
しかし、そうしなかったのは恩人の、「二人を頼む」という言葉。
そして別れの際のケンシロウの壮絶なる表情だった。
なにか自分では量ることのできない事情があるのだろう。
短い間の付き合いだが、ケンが何か大きな宿命を背負っていることはレイも感じていた。
それにアイリのことも気がかりだった。
この村に来てから落ち着いたものの、まだ精神的に不安定なところがあり
そんな中、妹のそばを離れることはレイも避けたかったのである。
「…っふ、奴の始末はケンに譲ってやるとするか...。」
ケンシロウは奴を倒すだろう。
それは間違いない。
それならば俺は奴から頼まれた約束を果たすのみ。
レイは己の考えに決着をつけた。
それに...。
この場所に近づいてきた気配を感じ、レイはそっとその場から立ち上がった。