瞬間 マミヤVer.4
 


思いも寄らなかった言葉にマミヤが目を見開く。

ペル、とは子供たちが飼っている犬の名だ。
子犬ながら賢く、愛嬌があり、村人からも可愛がられている。

マミヤはその名が指す意味は理解が出来ても、
何故この場で子犬の名が出てくるのかが分からなかった。

しかも『漢(おとこ)???』


その後に続くKOだのペルをつよくさせよう大作戦だの
信じられない言葉に完全に固まった。



そういえば・・・。
次の瞬間、この2,3日垣間見た不可解な出来事が
走馬灯のように彼女の頭を横切った。


ある時は、子供たちがペルの後ろ足に石をくくりつけていた。
ある時は、子供が総出でペルを引きずりまわしていた。(マラソン代わり?)
ある時は、昼寝中のペルを子供たちが叩き起こしていた。

「立て!立つんだ、Jo-!!!!!」とか何とか言って・・・。




そして極めつけは、先ほどからマミヤの頭痛の原因である朝のバットの発言。




この戦いで崩れた城壁の修復に指示を出しているマミヤの前に、
仁王立ちで登場したバットは開口一番、
「アレをくれ!!!」と叫んだのだ。

何のことかと聞き返すと、先日、牙一族の襲撃後途絶えていた隣村との交易が
再開したときに交換したある食材のことだった。



なぜバットがあんなものを必要とするのかするのか。

ニンニクなんかを!

確かに栄養価は高い。
血液サラサラ、疲労回復,風邪予防、冷え性、筋肉痛や心臓病、脳卒中、
糖尿病にも効果がある。
最近のメタ○リック症候群予防にも効能がある。

し、か、し。
子供が好んで食べたがるようなものではないだろう。
むしろたかるなら、もっと年相応のものを要求して欲しい。お菓子とか肉とか果物とか。


訝しげに聞きなおすと、
「しらばっくれんなよ、俺は知ってんだぜ。
あれを食べると
夜も元気になるって言うじゃねえか!
そんないーもん、大人が独占すんのかよ。俺にもくれよ!!」
とのたまったのだ。



夜も元気



『…誰?誰なの、そんなこと子供に吹き込んだのは!!』

あまりにも衝撃的な少年の発言に、脳内で容疑者(となってしまった)の村人達が
スライドショーで展開される。

とりあえず、目の前の少年には、
「子供がいるようなものではない!」と一方的に会話を打ち切り、
『落ち着いてから考えよう(泣)』とその場を逃れたのだ、自分は。



それが、それらが全て、ベルを強くさせるためっていうの?
ってゆーか、ペルにニンニクなんて与える気?子犬に?


完璧にフリーズしたマミヤの耳に、突然笑い声が飛び込んできた。
ゆっくりとその方向に目を向けると、レイが笑っていた。



あんな風に笑うなんて。
初めてみる彼の笑いに、遂にマミヤは口を開けて驚いた。


レイは自分の視線を感じたのか、どうにか笑いを押さえると、

ここまで言ってるんだ。なにかは知らんが、こいつらの根性に免じて少しやったらどうだ。」
全部とは言わんがな、とまだ苦しそうに笑いをこらえながらマミヤに提案する。
よく見るとその目には涙さえ浮かべている。




その子供のようなその笑顔に唖然としつつも、徐々に回復してきた頭でマミヤは思う。

彼は信じられる、と。



こんな風に笑える人に悪い人などいない。
例え、
スケベセクハラ大王であったとしても。

そう結論を出すと、いままで張り詰めていた神経が悲鳴を上げた。
不思議そうなとレイの表情に本格的に笑いのスイッチが入ってしまった。
自分の肩が震えだし、全身に広がっていくのを感じた。
『もう駄目、限界…』

次の瞬間。



ふふふふふふ...。あははははは...。

マミヤからも笑い声が漏れた。
久方ぶりの心からの笑い。こんなに愉快なのは一体いつぶりだろう。
笑いを抑える努力をやめ、声に出して笑い出すと、周囲の驚きを感じとりつつも、
マミヤは笑い転げ続けた。


気がつくとリンも一緒になって笑っていた。
バットも少しバツがわるそうにしていたが、へへへ、と舌をだして笑い出した。
レイも、再びゆっくりと微笑んだ。

その後、村はずれの人通りのないその場所に、しばらくの間笑い声がたえなかった・・・




 

続く