あんな風に笑うなんて。
初めてみる彼の笑いに、マミヤは現状に関わらず呆然としてしまった。
瞬間 マミヤVer.1
世紀末、ある小さな村。
村の全体を一望できる小高い頂からマミヤは村人を眺めた。
この村の人々は厳しいこの世紀末の世、
度重なる野党の襲撃にも耐え力強く生きてきた。
他の多くの町や村を見てきた訳ではないが、
この村ほど生命にあふれ、活力に満ちた場所は無いだろう。
その自分の考えを裏付けるように、この場所から見える村人達の表情は
とても生き生きとしていて笑顔を浮かべていて・・・。
つい自分の胸に誇らしさがこみ上げてくる。
そしてこの度の牙一族の襲撃にも、なんとか勝利をおさめることが出来たのだ。
…払った犠牲は大きかったが…。
無意識に胸のペンダントに手が触れる。
「コウ…」
まだその名を呟くだけで目が熱くなる。
この場に弟がいて、この平和を共に感じることが出来るならば
どんなにか幸せだろう…。
それほど大きな戦いだったのだ。
牙一族は手ごわい相手だった。
あの二人の助っ人がいなければ、自分の命も村人達のこの笑顔も
存在しなかったに違いない。
無愛想で寡黙なケンシロウと、初めは敵のスパイとしてこの村に現れたレイ。
初めは信用などできなかった。
この世紀末の世、流れ者を信用など出来るものか。
しかし、この二人は請け負った仕事でもないのに、弟の仇をうち、
形見のペンダントを取り戻してくれた。
その上、圧倒的な力でもって、村を脅かす牙一族を完全に一掃してくれたのだ。
どんなに感謝してもし尽くせない。直接礼の言葉を声に出したわけではないが、
マミヤは村の誰よりもこの二人に深く感謝していた。
そして戦いの後、ケンシロウに感謝以上の気持ちを抱いている自分に気づいた。
あの時の自分の浮かれようを思い出し、マミヤは自嘲の笑みを浮かべる。
まだ足元のおぼつかないアイリを支えながら、
マミヤ自身も長いドレスに足をとられそうだった。
久しぶりに身につける衣装に身体を上手く動かすことが出来ない。
いや、緊張して足がもつれているのだ。
…あの男の襲撃以来、
両親が命を落とし自分の人生が180度変わってしまったあの時から
女性らしい装いなどしたことは無い。
両親が建てた村を守るため、残された弟を守るため、
そしてあの出来事を少しでも忘れるためにマミヤはがむしゃらに戦ってきたのだ。
女としての幸せに背を向けつつ…。
そんなマミヤが、思いを寄せたケンシロウの前にドレスを着て登場したのだ。
少しばかりの期待を胸に。
しかし、彼は自分のその姿に目もくれなかった。
分かってた。
彼の心には他の誰かがいることが。
そして誰もその女性の代わりになれないということが。
マミヤは頭を軽く振り思考をムリヤリ現実に戻した。
「よそう、こんなの自分らしくない。」
そう、なすべきことは山ほどあるのだ。
けが人の手当てに、医薬品の調達。
食料の確保と、近隣の村との交易の開始。
城壁の修復作業等々。
疲弊した村を元に戻さなくてはいけない。
両親が願った、花が咲き乱れる村にするために!
…そして。
あった、もうひとつ大きすぎる問題が残っていた。
それは村を救ったもう一人の助っ人、レイ。
そう、あのセクハラキング。
彼の存在こそが、マミヤの目下抱えている最大の課題といえるのだ。