喜劇と悲劇
それは相反するもの。
それは同一なるもの。

ある一つの事象がおこっても
周囲にとっては笑い事だが、
当事者にとっては笑い事ですまないことがあるのだ


(Nojika語録3章 足の小指強打したら笑われたよ、コンチクショーより)

白衣の悪魔現る! Vol.3

 

「消毒はもう十分だ」
と訝しがるマミヤを出来るだけ優しく押しのけた。

内心では絶叫していたが、そこは南斗六聖拳、義の漢。
ぐっとこらえた。俺、偉い。100点。
正に気分は


自分で自分をほめてあげたいです

「じゃあ、せめて薬だけでも」
「薬だと?」

聞けば村から2,3里離れたところに薬を扱っている街があるという。
そこから仕入れたようだ。
しかしまだ薬は貴重品。食料よりも手に入りにくいのだ。
それを己なんかの治療に使っても良いのか・・・


棚から小さな包みを取り出したマミヤと目が合う。
戸惑う俺の気配を察したのか、

「こんな時に使わないと、何時使うのよ!怪我人は余計な気はまわさない!!」

と怒った様に俺を軽く睨むマミヤ。

そんなマミヤの優しさに、先ほどの痛みは一気に引いた(様な気がした)

マミヤが差し出した薬を水とともに口に含み、一気に飲み込む。
少し、苦い。なにか独特の味がする。
思わず顔を顰めたのを、マミヤに見られていたようだ。

「子供みたいよ、レイ」
ふふふっと優しく微笑むマミヤ。

その笑顔に完全に囚われた。

・・・ま、まずい。


やばい、俺。落ち着け。俺。


「レイ?」
不思議そうに俺を見上げるマミヤ。しかも上目遣いだ


「く〜〜〜〜・・・!!!」

頬がうっすらと上気するのが分かる。

「レイ?顔が赤いわよ?どうしたの」と
ますます身体をにじり寄せてくるマミヤ。

いや大丈夫だから、もう少し離れてくれ。

内心うろたえまくる俺。

すると、
「ちょっと失礼」

止めるまもなく、マミヤは俺の髪を軽く掻き揚げると

ゴチン


「ううーん、少し熱いかな?熱まで出ちゃったのかも・・・って、レ、レイ?!」



・・・
・・・・・


おでことおでこをごっちんこ。
おでことおでこをごっちんこ。
おでことおでこをごっちんこ。
おでことおでこをごっちんこーーー!!!!!


俺はそのまま後ろの寝台にダイブした。


「はい」

少し意識を手放していたのだろうか。
気がつけば、マミヤの差し出す手の中には一本の体温計が。

熱を測れということなのだろう。

しぶしぶ受け取ると、手の中でその細い棒を転がす。


測るまでもなく、これは別の熱なのだが・・・
内心ため息をつく。

怪我による発熱ならば安静にしていればいつかは下がる。
だがこの熱を下げるには、一体どうすれば良いのか・・・。
マミヤ、俺の熱。俺の欲望。



何時までたっても測ろうとしない様子に痺れを切らしたか、俺からそれを奪い去り、
ぐいっと体温計を口の中に押し込むマミヤ。

怪我人相手に少し乱暴ではないかと思ったが、
マミヤの指が俺の唇に触れたからよしとしよう。

(中学生日記か!ってなくらい甘酸っぱい気持ちに浸ってるレイ)




チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチ

3分。
長い。
なんか、間がもたない。

手持ち無沙汰で目を泳がせると先ほどの薬の包みが。
これは大丈夫だよな、と思いつつ、悲しいかな薬品名を確認する。

少し、外箱の表示が磨り減っているが、かすかに「凝固剤」と読める。

これで少しはこの出血も収まるか。


・・・あれ?
ちょっと待て。
主成分、ワルファリンとな?

汗が吹き出る。
まさか、又?


見間違えたと思いたかった。

が現実はあくまで厳しく。
擦れた「抗」の字が。


う・ん・ち・く
抗凝固剤とはなにか。簡潔に説明しよう。
読んで字の如し、血液が固まらないようにする薬品だ。
脳梗塞または大梗塞を起こしている患者に投与し、血液が凝固するのを妨げる
血栓塞栓症の治療薬として知られている。
代表格、ワルファリンは、医薬品と殺鼠剤の両方において用いられている。
そして、ここ一番重要!!!

決して、過度に出血している患者に対し、使用してはいけない。


・・・・・・・!!!!!



全身に緊張が走るのを感じた。
まずい!と思った時には遅かった。
更なる不幸がレイを襲った!!!


ボキ!

口元から起こった太い音。そして舌に広がる鈍い味。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!


確実に噛んだ。噛み砕いた。破壊した。



う・ん・ち・く
水銀体温計にて体温を測る際の注意点を簡潔にのべると、
水銀計は比較的正確に体温を測定可能だが、破損した水銀計での口内検温は危険。
口内で噛み砕いたりすると危険です、気をつけましょう。




中身を吐き出し、慌てて咳き込む俺の姿に驚いてマミヤが駆け寄る。
俺と床にぶちまけた元体温計を交互に見つつ、
なにが起こったのだろうとオロオロとしている。



マミヤ。すまん。大丈夫だ。

そう言葉を紡ごうとしても
ただただ咳き込むのみ。

それでも少しで彼女の不安を払拭しようと
(何とか)ゆっくりと(口をあけたまま)微笑むと。

「…ああ、これ最後の一本だったのに」

追い討ちの一言が愛する女の口から漏れた。


ゴフッ

レイの口から一筋の血がツッと流れた。




アベシィーー!



次へ