喜劇と悲劇
それは相反するもの。
それは同一なるもの。
ある一つの事象がおこっても
周囲にとっては笑い事だが、
当事者にとっては笑い事ですまないことがあるのだ
(Nojika語録3章 足の小指強打したら笑われたよ、コンチクショーより)
白衣の悪魔現る! Vol.2
いそいそと戻ってきたマミヤ。
その手にはビンに入った赤褐色の液体。
封を開けるとツンとしてにおいが周囲に立ち込める。
「まずは一番ひどい胸の傷からね・・・」
と血だらけの包帯をゆっくりとはがし、
脱脂綿に少量その液体をつけ、患部に塗布していく。
出来るだけ痛まないようにか、
徐々に傷口をなぞる、その動きに。
背中が
ぞくりとした。
マミヤの指が肌にふれる。
彼女の髪が肩にかかり、吐息を感じる。
未だかつてないほど近くで見る彼女の顔。
ありがとう、君たちに感謝!!
もはや野党に拍手を贈りつつ、
高揚する気持ちを抑えることが出来なかった。
彼女が触れたところから徐々に熱を帯びる身体。
ゾクゾクする。
・・・これは、やばいかも。俺。
抑えられないほどの熱を感じながら、
彼女の顔(と胸の谷間)から目を逸らそうと視線を宙に泳がせる。
ふと、マミヤが持ってきた薬ビンが目に留まった。
茶色のビンにラベルが。
そこに書かれている薬品名は
ヨードチンキ
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
あれ?
「ちょ、だめよ、レイ。動かないで」
「いや、マミヤ。」
「あっ、もうっ!レイってば。
南斗水鳥拳伝承者ともあろう人が、これくらいの痛みを我慢できなくてどうするの」
「い、いや。少しまってくれ」
「・・・え?そんなに痛む?だ、大丈夫?もう少し我慢できる?」
「ああ、それは出来るが。その前に。一つ聞きたいのだが・・・」
「え?なあに?」
ようやく脱脂綿を患部から離し、レイの顔を見上げるマミヤ。
その輝く瞳は100万ボルト。
地上に降りた最後のエンジェル。
慈愛に満ちたその美しい姿は、まさに白衣の天使。
が、ここは確認せねばならない。
「マミヤ。この薬だが、その。薄めたりしたのか?」
「え・・・?」
きょとん、とマミヤが首を傾げると。
「してないけど・・・?」
Yappari−−−−−!!
拳法を学ぶものとして、レイにも多少は医療の知識はある。
当然だ、傷ついた己の身体を癒すのは己のみ。
他人に任せて毒を塗りこまれたりするようでは戦士失格だ。
ではここで簡単にヨードチンキについて説明しよう。
ヨードチンキは赤褐色の液体で劇薬。
通常、消毒に用いられるのは希釈した希ヨードチンキ(色は茶色)。
つまり消毒に用いられるのは、希釈したもの。
そのまま使用すれば、劇薬です。
黙り込んだレイを不思議そうに見つめるマミヤ。
「え、どうしたのレイ?赤チンって消毒液でしょ?」
「・・・マミヤ。これはヨードチンキだが赤チンではない・・・」
「え、え、え?だってこれ赤いわよ?赤チンって赤いのでしょ?」
う・ん・ち・く
ちなみに、通常「赤チン」と呼ばれるものは、メルブロミン液のこと。
前述の、希ヨードチンキが茶色なのに対して、赤いことからつけられた
皮膚・キズの殺菌・消毒に用いる。
「・・・うん。そうだね。赤いね。」
身体を襲う熱はいまや耐え難いほど、
全身がゾクゾクする。
「ありがとう。もういいからね。充分だからね・・・。」