8.何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。
 
 それでもなお、築きあげなさい。  

    What you spend years building may be destroyed overnight.
    Build anyway.


何故このようなことに。

数日前には。
この沿道には人が溢れていた。
笑顔があった。
町があった。


しかし。今は。


Vol 8 開拓者




一つ一つ、町の人たちの墓をたてるトキ。

その手は土にまみれ、白衣も泥で汚れている。
額を流れる汗をぬぐおうともせず、一心不乱に墓を掘る。




ああ、この老人の足はあと少しで治るはずだった。
いつも診療所向かいの壁にもたれ、フラフラと足を揺らしていた。
己の姿を認めると杖を振り上げて、こう叫んだものだ。
「先生、見てください。大分良くなりましたよ」


この少年は腹の治療に訪れていた。
治ったら、お腹一杯に母親の作ったロールキャベツを食べるのだ、と
目をキラキラさせながら。


この壮年の男性は内臓をやられていた。
「先生、俺治ったら、思う存分酒を飲むんですよ。
先生も是非とも一緒に。秘蔵の酒があるんですよ。とっておきですよ」
その後付き添いの奥さんにこっぴどく怒られていたな。



ひとりひとりの顔を覚えている。
自分に向けられた笑顔を。


だが今は。
皆、物言わぬ屍となってしまった。



あの虐殺を行った野党たちも今はいない。
町の人たちと同様に、冷たい土の上にその屍を横たわらせている。

町の人たちと同じく野党たちの墓も作るトキ。

奴らの所業は許しがたいが、
死して後にその身を辱める理由はトキは思いつかなかった。
何よりもこの死体の山を、目の前から消し去りたかった。


私は一体何をしてきたのだろう。

何も無くなった町。
誰もいなくなった町で。

薄暗い診療所の椅子に腰掛け、呆然と思う。



私の今までやってきたことは何だったのだ。


北斗神拳伝承者の道を閉ざされてから。
この悲しい世界を私なりに精一杯生きてきた。

残り少ない命を賭して、
殺人拳である北斗神拳を人の為にふるってきた。

全ての人までは救えなくとも、
目に映る人々の幸せを守ろうと。


そう思っていたのに。
そう願っていたのに。
そしてその祈りは叶いつつあったのに。


昨日までは。



「っくっ・・・!!!」

日が落ち、暗闇が支配しつつある診療所の中で
トキはただひとり、震える肩を必死に抑えていた。






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