6.
最大の考えをもった最も大きな男女は、
最小の心をもった最も小さな男女によって撃ち落されるかもしれない。
それでもなお、大きな考えをもちなさい。
The biggest men and women with the biggest ideas can be shot down
by the
smallest men and women with the smallest minds.
Think big
anyway.
何年かぶりに会った妹は幸せそうであった。
とても。
Vol. 6 Wish
北斗の伝承者争いにも一応の決着がついたようだ。
あの三男が伝承者に選ばれるなどとは誰も思っていなかったが
まさかケンシロウがその座に就くとも、ほとんどのものが予想していなかったようだ。
妹に会う為に南斗の道場に訪れた俺は、慌てふためく奴らに嘲笑した。
大方の予想はあの長兄。ラオウ。
北斗神拳の歴史の中でも、強大な漢。
南斗六星のサウザーなどは、すっかり伝承者はヤツと思い込んでいたようだ。
勿論、トキが病に倒れることがなければ、の話だが。
まぁ、俺には関係のない話だ。
聞けば、明日にリュウケンの墓に寄ってから旅に出ると言う。
どこか静かなところで、誰も知らない場所で、
目に映る人々を助けながら、
つつましく、平和な生活を二人でスタートさせるのだ、と。
ハッ。
甘いことだ。
北斗神拳は比類なき暗殺拳。
しかも世紀末、この乱世において。
人を傷つける為でなく、助ける為にその拳を振るうというのか、あの男は。
人のため、か。
聞こえは良い。
しかしその理想とやらを、現実とするにはそれ相応の力が必要だということを。
これから歩む道は、決して平坦ではないということを。
若い二人はどれほど理解しているのだろうか。
まあ、いい。俺が口を挟むことではない。
目の前の笑顔を曇らせるようなことはしたくなかったし、
何より、他人が述べるべきことでもない。
本人たちが現実に直面し、そこで、憤り、怒り、悲しみ、涙し、
そして学んで乗り越えていくことだ。
妹が選んだ男だ。
心配することはないだろう。
それに。何よりも。
妹があの男の側で幸せになれるのであれば。
「もう会うこともあるまい。」
彼女の輝かんばかりの笑顔をじっと見つめ、餞の言葉を贈る。
俺が一番望むこと。
俺の唯一の願いを。
「幸せにな。」
一瞬彼女の目が大きく見開かれ、見る見るうちに涙が溢れた。
「はい。お兄さん。幸せになります。」
幼子のように、何度も何度も頷きながら繰り返す。
「はい。お兄さん。
私、幸せになります。
必ず、幸せになります。
絶対に、幸せになってみせます。」
その言葉に一つ頷くと、彼女の少し震えている肩にそっと手を置き。
「達者でな・・・。さらばだ。」
そうして。
俺は。
掌(たなごころ)の玉(たま)をこの手から放したのだった。
歩きながら考えるは、妹の婚約者。あの眉毛の太い男、ケンシロウ。
あそこまで妹に言わせておいて、万が一彼女を悲しませでもしたら、
割腹くらいではすまさんな。とりあえず泰山天狼拳7発くらいか。
そんなことになったら、間違いなくもうひとりの厄介なヤツも参戦するだろうし。
撃壁背水掌くらい放つかも知れん。
フンッ。まあ、それも良かろう
慈しみ、愛してきた大切な彼女。
不幸にしようものなら、
コキュッ。と成敗してくれるわ!!
未来の義弟に対して、いささか物騒なことを考えつつ、己の居城に戻ろうとする。
その時。
視線を横ぎるは黒い影。
醜悪なヘルメットの男。
北斗三男のジャギか。
そしてもう一人。
黄金の髪を揺らしつつ、ジャギの放つ臭気から逃げるように足を速めるのは・・・
シン。
その端正な顔には、今まで見たこともない表情が貼り付いていた。
似つかわしくない二人組みに。
なにか漠然とした不安が心の中で広がっていくのを感じた。