涙9 Side レイ 


窓から差し込む柔らかい光でレイは目覚めた。


明るさを増していくその光に目を細める。

 

 

ふと、腕に感じる重みに視線を向けると。
そこには彼女の姿。

マミヤ。

 


絡み合った赤と蒼の髪が、
体を覆う心地よい倦怠感が、
腕の中のぬくもりが、

昨晩の出来事が夢ではなかったというしるし。

 

 

 

 

神というものがもしも存在するなら。

なんと寛容なものか。


こうして今日という日を迎えることが出来た。
彼女の幸せを守るという誓いを果たす機会を与えてくれた。
諦めていたこの想いを叶えさせてくれた。

・・・残された時間は少ないものであっても。


感謝をしよう。神に、運命に。

 

 

 

ゆっくりと寝台から身を起こすと、
マミヤを目覚めさせぬように出来るだけ静かに衣服を整える。

 

ヤツとの最期の決戦だ。
敗れる訳はいかない。決して。

 

勝利によって得られる未来は自身にはない。そんなことは百も承知だ。
ただ、この闘いはマミヤの為だけに捧げよう。
彼女を支配する呪縛から解き放つ為だけに。

 


敗北は許されない闘いに赴こうとするレイ。

 

 

 

 

扉に向かう前に、今一度寝台に目を向けるレイ。

 

未だ眠っているマミヤの姿を目に焼き付け、手を伸ばす。
これが最後だと言わんばかりに。


髪を、手を、唇を、瞼を、頬を、首を、身体を。
マミヤを構成する全てのものを。
指先で軽く撫でるレイ。

そしてその額に可能なまでの優しさで以って口付けを一つ落とす。

 

 

この扉を出れば、二度と見ることも、触れることも、抱きしめることもないだろう。

 


礼を言う。マミヤ。
お前と出会って。
お前と共に同じ道を歩めて。
お前を愛することが出来て。

 

俺は幸せだった。

 

お前のお陰で俺はヒトに戻れた。
お前のお陰で俺は真の愛を知った。
お前のお陰で俺はこの瞬間を生き、悔いなくこの生を全う出来る。

 

 


俺はゆこう。


死兆星の落ち行く日まで、お前が心安らかに過ごせるように。

マミヤ・・・、お前の為だけに死ぬ男が一人ぐらいいてもいい。

 

 


マミヤ・・・、愛してる・・・。

 


心の中でそう呟くと。
愛しいマミヤの姿を今一度とらえ、
レイは迷うことなく扉へと進んでいった。



 

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