涙10 Side マミヤ 


行ってしまった。

寝台に深く身を預けながらマミヤは身動ぎもしないでいた。


気づいていた。

髪を、手を、唇を、瞼を、頬を、首を、身体を。
私の全てを、愛しげに撫でるレイの指を。額に落ちた優しい口付けを。

 

 

神というものがもしも存在するならば。

なんて気まぐれなものか。

こうして今日という日を迎えることが出来た。
彼の熱を、身体を、想いを。この身に感じる機会を与えてくれた。
長年私を縛り付けていた鎖から解き放ってくれた。

・・・その一方で、無慈悲にも私から彼を奪い去る。


幸せと共に絶望を与える運命という名の神。

 

 

 

レイのぬくもりが未だ残る寝台から身を起こすと、
全身に刻まれた昨晩の情事のしるしに赤面しつつ、静かに衣服を整える。

 

 

あの男との最期の決戦。
レイは勝つだろう。必ず。


願いでなく、祈りでもなく。それは確信。

 


しかし。

 

勝利によって得られる未来はレイにはない。そんなことは分かっている。
この闘いは私の為だけに捧げられたモノ。
私を支配する呪縛から私を解き放つ為だけに。

 

敗北は許されない闘いに赴こうとするレイ。
哀しいまでのレイの優しさと固い決意、そして己への深い愛を感じる。

 

 

彼の優しい指の、口付けの感触がよみがえる。

 

 

ありがとう。レイ。
貴方と出会って。
貴方と共に同じ道を歩めて。
貴方に愛されて。

 

私は幸せだった。

 

貴方のお陰で私は一人の女に戻れた。
貴方のお陰で私は真の愛を知った。
貴方のお陰で私はこの瞬間を生き、悔いなくこの生を全う出来る。

 

 


私は生きる。


死兆星の落ち行く日まで、私は精一杯生きる。

レイの・・・、彼の真摯な想いに応える為にも。

 

 


レイ・・・、愛してる・・・。

 


心の中でそう呟くと。
レイのぬくもりが残る寝台に今一度指を這わせ、
マミヤは迷うことなく扉へと進んでいった。



 

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