涙8 Both side


永遠とも思われるその均衡に終止符を打ったのはレイだった。

 


「今、ここで、お前にどうしても伝えたい事がある。聞いてくれるか。マミヤ」


耳元で囁かれたレイの声に。
マミヤはただ、僅かに頷くしかできなかった。

 


「お前の過去がどうであれ、お前の宿命がどうであれ、俺は構わない。
 この後、何が起ころうとも、いかなる結末がお前を待ち構えていようとも
 この気持ちは未来永劫変わらん。
 俺はお前を愛し続ける。
 マミヤ。
  お前だけを・・・。
   愛している・・・・・・。」

 

泣き続ける幼子を宥める母親のような優しさでもって。
迷い子を慰める父親のような強さでもって。
愛を知った一人の男の矜持と激しさでもって。

マミヤに語りかけるレイ。

 

 

 

「本当にいいの?私で・・・?貴方は後悔しない・・・?こんな、こんな私で・・・」

思わず聞き返すマミヤ。


その台詞に、一瞬レイは切なげに顔をゆがめた。
が。次の瞬間、どこか困ったような苦笑の笑みを浮かべる。


「全く、よほど俺は信用がないと見える。先ほどから言っているだろう。」


マミヤの目を覗き込むと。
 
「お前だけを愛している。
俺はお前と出会い、お前を愛した。
 この運命に感謝しようこそ、お前を愛したことに後悔などしよう筈もない。 
 何度でも言おう。俺はお前を愛してる。お前の全てを。」

 

 

マミヤは今まで自分を支配していた楔が一瞬のうちに消え去ったのを感じた。

溢れ出す感情の波が全身を支配する。


ありがとう。レイ・・・

 

 


またもや泣き出してしまったマミヤの背をレイは困ったように撫でた。


「こんなにお前が泣き虫だったとはな。少し、いや、物凄く意外だったな」

 

あまりの台詞に、反射的にレイを軽く睨むマミヤ。
その視線を受け、おどける様に肩をすくめるレイ。

 

一気にその場の空気が変化した。

 

「もぅっ、失礼よ!」とマミヤは両の拳でレイの胸を軽く叩き。
「悪かった、悪かった」とレイは幼子をあやすが如くマミヤの頭をポンポンと撫でる。


そして。

二人の笑い声が響き渡る。

 

 

ああ、もう大丈夫。もう私は涙を流さない。
   
ああ、もう大丈夫。もう彼女に涙を流させはしない。

 


しばらくの笑いあったのち、

レイの腕がマミヤの身体を引き寄せ、
その指がマミヤの顔を持ち上げる。

二人の視線が交差する。
そこには戸惑いも恐れも迷いもない。

 

戸惑うことなく二つの影が近づき、距離がゼロとなった。



 

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