涙6 Sideレイ
いつしか彼女の姿を目で追っていた。
妹とは違った次元で「守りたい」と願うようになり、
彼女の笑顔を、心を、そして彼女の全てを。
俺だけのものにしたいと思うようになった。
しかし彼女の瞳がケンシロウを見つめている事を悟った時。
俺はこの気持ちを封印した。
ラオウとの闘いの場で思わず告白してからも、
死に逝く俺がこれ以上彼女を苛むわけにはいかないと、
二度とは言葉に表すまいと誓ったこの想い。
しかし。
彼女の言葉に、涙に、悲しみに。
耐え切れず、だまっていることなど出来ず。
熱き想いを再び吐露すると、俺はマミヤを抱きしめた。
先ほどとは比べられない強さで。
きつく。きつく。
夜の帳はすっかり落ち、圧倒的な静寂が俺たちを包む。
永遠とも思える時間の中で、
世界に俺たち以外誰も存在していないかのような錯覚に陥った。
決戦の前の。
静かな、美しい夜。
身動ぎもせず、俺の腕の中におさまるマミヤ。
少し肌寒くなった空気の中、
夜気から逃れるように、無意識にかマミヤが俺の胸に頬を寄せる。
彼女のぬくもりを感じた。
その時。
俺の身体の中で、一つの、しかし激しい炎が灯った。
心の奥底に封じ込めていた欲望の炎が。
・・・マミヤ・・・・・・。
俺の愛、俺の全て、俺の存在意義、俺の・・・欲望。
直に感じる柔らかい身体に、かぐわしい吐息に、髪の匂いに、温かい体温に。
凶暴なまでの衝動が俺を襲う。
マミヤが欲しい。
マミヤの全てが。
この腕の中に抱き留めたい。
その悲しみを少しでも掬い取ってやりたい。
彼女の瞳を、唇を、胸を、熱を、身体を、全てを。
俺だけのモノにしたい。
俺しか見えぬようにこの手にマミヤを捉えたい。
−それが今だけであっても−
ああ、全く、俺はつくづく欲深に出来ているらしい。
これほど自分が欲張りで、醜く、利己的な人間だったとは。
マミヤの笑顔を守ることが出来るのならば。
マミヤが少しでも幸せであるのなら。
俺なぞはどうでも良かった。
この命も、残された日々も。
そして彼女への想いですらも。
それだけで充分だったはず。満足だったはず。
それなのに。
なんと弱いのだろうか。
なんと愚かなんだろうか。
なんと強欲なんだろうか。
彼女の心の傷を癒すことも未だ叶わず、
妄執にも似たこの想いを捨て去ることも出来ず、
今、彼女の身体を離すことも出来ない。
「ヤメロ、カノジョヲキズツケヌウチニ。ハナセ、ソノウデヲ」
ガンガンと頭で鳴り響く声。が。
しかし腕は一層マミヤの身体を抱き寄せた。
満天の星の下、互いに体温を分かち合うマミヤとレイ。
精巧な彫像の如く、微動だもせずに抱きしめあう。
第三者から見れば、それは紛うことなく恋人たちの抱擁で。
しかし、二人にとっては張り詰めた糸のような、緊迫した関係。
互いに。進むことも。退くことも出来ないこの距離。
レイは、ただ、どうしようもなく、腕の中のマミヤのぬくもりを感じていた。