涙11 Side レイ


肉が弾ける。

その衝撃に揺らいでしまった身体を。
崩れ落ちそうになる俺を。

 


支えたのはマミヤの手だった。

 

 


マミヤ・・・。

二度と見ることも、触れることも、抱きしめることも叶うまいと思っていたのに。
今こうして腕を通して感じるは彼女の温かさ。

 

交差する視線、触れ合う肌と肌、溢れ出す感情。

瞬間。

時間が止まってしまったような思いに駆られる。

 

 


だが。
額を流れ続ける血に。
俺の身体で暴れまわる激痛の波に。

己に残された時間があと僅かということを知る。

 

「フッ、とうとう最期の時が来たらしい・・・。」

 

 

マミヤはその美しい瞳を揺らしている。
俺を支える細い腕を通して彼女が震えていることが分かる。


その肩に優しく、だかしっかりと手を置き、握り締める。


これが彼女に贈る最期の言葉。

 

 


「・・・マミヤ。
 いいか。
 死兆星が頭上に落ちる日まで精一杯生きろ。」
 
 
見る見るうちにマミヤの目に涙が溢れる。


「たとえ一瞬でもいい、女として生きろ。女の幸福を求めるのだ。」


溢れた涙は彼女の頬を次から次へと濡らしていく。

 


全くお前はよく泣く。やはり女だ。
だが。・・・ああ、もう泣かないでくれ。
お前に涙は似合わない。
お前には笑っていて欲しい。
お前を縛り付ける運命から自由になって欲しい。
お前は・・・お前だけは、幸せになって欲しい。
他の誰よりも・・・・・・

 

 

「さらばだ・・・」


今一度彼女の肩をぐっと握り締めると、彼女に背を向け進みだす。

己の死に場所へと。

 


「レイ!!!」
マミヤが駆け寄る気配。

 


「来るな!!!」

 

彼女の動きが止まるのを感じた。

 


「・・・来てはならぬ。
 俺は、お前にだけは俺の砕けていく無様な死に方を見せたくない。」

 

次の瞬間。
再び砕ける肉体。

悲痛な叫びを上げる彼女。

 

背後の彼女は一体どんな表情をしているのだろうか。

 


マミヤ・・・・・・。

お前が悲しむことなどない。
涙を流すことなどない。
この俺を悼む必要もない。

 

これは俺に定められた運命。


この結末に悔いはない。

 

 

俺はお前と出会えて、お前を愛せて、お前と一つになれて。
幸せだったのだから。

 

 

 


だから、だから。お前も。どうか。

 


ゆっくりと振り向き、マミヤを見つめる。
その顔に穏やかな笑みさえ浮かべ、レイは最期の台詞を紡ぐ。


可能なまでの優しさで。


己の一番の願いを。

 

 

 


「しあわせにな!!」



 

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