瞬間 レイVer.6
 

「今回は私の負けだわ」


そう宣言した彼女に子供たちは勝利の雄たけびを上げた。


しかし、
「でも、あれは駄目よ。代わりに干し肉と新鮮なミルクをあげるから
それで我慢しなさい!」

という台詞に再びブーイングをする。

「駄目といったら駄目!
この貯蔵庫に蓄えている分はこれからの栽培用として蓄えているものよ。
それにペルには干し肉とミルクのほうが断然いいわ!
代わりにもって行きなさい。特別よ!」

バットはまだぶつぶつといっていたが、リンにたしなめられ、遂にあきらめたようだ。

『急ぐことはない、今回が無理ならば、次の収穫のときにがっぽりせしめればいいだけか・・・。』

コンマ2秒で頭の切り替えを行ったバットの、
その後の行動はすばやいものだった。



ドーンと来い!!とばかりに。

干し肉、ミルクだけでなく、目に付くあらゆる食料を
両のポケットに詰め、そして両手にもおさめる。

・・・・・・

どう考えてもペルだけのためではないだろう。





そうして、先ほどとはうって変わった上機嫌さで

「さすがマミヤさん、話が分かるぜー」

と言いながら意気揚々と村に戻って言った。

リンも、「もう、バットったら!」と呟きながら、
レイとマミヤに軽くお辞儀をすると、その後を追いかけていった。



マミヤは微笑のまま彼らの後姿を眺めていた。
彼らの後ろ姿が見えなくなったころ、
マミヤは後ろで優しく微笑んでるレイにゆっくり振り返る。


刹那

二人の視線がぶつかり合った。




レイの美しい瞳を見据えながら、なにか悪戯っ子のような微笑をうかべたマミヤは、
ゆっくりと一言。



「次からは許さないからね。」



もう一度微笑むと、レイに軽くウインクしてその場を立ち去った。



「次からか・・・。まあ、確かに今回は特別だな。」


レイは一人呟く。
これに味を占めてバットが毎日乗り込んだら、あっという間に食料がゼロになるだろうし。
確かに助け舟をだしてやるのは今回限りだな。 


そんなことを考えながら、彼女の笑顔を思い出す。




マミヤの・・・あの笑顔。
ケンシロウも知らないだろう
彼女の本当の微笑み。
己の心の奥で、なにか暖かいものが生まれるのを感じつつ、


あの笑顔をもう一度見たいな、


そう思った。



これが、レイがマミヤに恋をした瞬間(とき)。


 

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