目の前で展開される光景を
   見たくない。
  信じたくない。
 考えたくない。







旧年中に計画を練り上げていた『二年越しラブ』を実現させた俺。

今年こそは外野(←言わずもがな。筆頭イモ爺さん)に邪魔されることなく
思う存分新婚生活をエンジョイしよう。

と。

固く心に誓い。

甘い夜の後、愛しい彼女の熱を感じながら惰眠を貪っていた俺だったが。

そうは問屋が卸さなかったようで・・・。  

           

                 
 ルールルルールールルー


ある食卓の光景   〜ビバ☆ヨッパゲ   




ドンドンドン


暴に叩かれたノックの音で、眠りの世界から引き戻された。

いそいそと服を着替えて、入り口に向かうマミヤ。
寝ぼけ眼で彼女の後姿を捉えながら、俺は来訪者に悪態をつく。


チクショウ。目が覚めたら。
 正月だし、休みだし、一年の初めだし・・・。
  もう三発、いやニ発、譲歩して一発くらい。
   いっとこうと思ったのに・・・。




忌々しげにドアを睨む。

ここは早々とお引取り頂いて、二人っきりのラブタイムを再開させよう・・・


仕方なく衣服を整え、来訪者を迎えるべく、寝台から身を起こす。

「マミヤ。誰だったの・・・だ!!?」


目を疑った。

眼前には
長老を先頭に
一升瓶を抱きしめ
つまみも両手両足に抱え
酒樽を転がしつつ
ぞろぞろとやって来る村人が・・・・・。


「新しい年の始まりには、皆で交流会をするの」

いつかマミヤは俺にそう語ったことがある。

そうすることで、村人たちとの親睦を深め、結びつきが強化できるという・・・



確かに。

さして大きいとは言いがたいこの村だが
豊富な水源を有しており、食料も豊富に備蓄されている。

野党が食指を動かすだろう村。


だが、それに対抗する力は不十分だったと言わざるを得ない。
 
 多少腕が立つとは言え、女の身であるマミヤ。
 そして勇敢だが屈強な戦士とは言いがたい村人たち・・・。

・・・・よくぞ今まで野党どもにこの地を蹂躙されなかったものだ。


個々の力では圧倒的に適わない非力な彼ら。
だが、対一でなく。集団では?



なぜにこの村がこの世紀末の世で今まで生き残ってきたか。


恐らく。

リーダーのもと。

この村は。

村人間の連携が上手く取れていたことのだろう。

村人一人一人ー男も女も、老いも若いもーが、互いを思いやり。
自分の能力の中で最大限に考え、動き、働き、闘ってきた所以なのであろう。





他人を信じることも頼ることも無く。
一匹狼として、
孤独のうちに世紀末の世を生きてきた俺は


この村で暮らしてから


彼らの固い結びつきを、思いを、互いの信頼を・・・。


羨ましく、そして眩しく感じた。

 こんな風に人を信じたいと。
  こんな風に人を守りたいと。
   こんな風に人と愛したいと。


そして

     こんな風なヒト(人間)になりたいと・・・。

そう願ったものだった。




前言撤回。



「次は何いくかのう?」
・・・
「そうだなあ・・・。あ、この前隣町の奴から貰ったアレなんかどうだ?」
・・・・・・
「マミヤさーん。ツマミはどこですかー?」
・・・・・・・・・
「くはー、旨いな。この酒」
・・・・・・・・・・・・
「おーい、グラス足りてないぞー」
・・・・・・・・・・・・・・・
「おまえ、俺の酒を取るなよー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あー、吐くな、吐くな、吐くなー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

五月蝿い
 五月蝿い
  五月蝿い
   五月蝿い
     五月蝿いーーーー!!!!




俺のあの想いはどうしてくれるのだ。

俺が羨望の眼差しで眺めたあの人たちはどこに行った。



老年ながら村人の主柱となっている、長老
如何なる逆境においても諦めない、戦闘指揮官アサ
目立たないが堅実な働きで補給を担当するルイ
隣村との交易を司り、物資を手配するハイキ
医術で以って数多の怪我人を救ってきたコウギ
片手片足の身体で村の治安を守ってきたカイリ
自警団リーダー、クルイ
そして。
女の身でありながら、村のリーダーを務めるマミヤ


俺が羨ましく、そして眩しく感じた・・・。
そんな、男たちが。
そして、俺の愛する妻が。


今は・・・・・・

「マミヤさん。ささ、どうぞ」
「このツマミもいけますよ」
「いやいや、これもなかなか」
「あ、グラスが空きましたね。次はこれを」
「はい、グいっとグいっと」


ただのヨッパゲに・・・・・



これが、これが、これが。

俺が羨ましいと願った人々か?
眩しく感じた光景か?


一升瓶を直接がぶ飲みするバカども。
千鳥足で野郎同士でチークダンスを踊るアホども。



そして

右左正面後ろ。
群がるおっさん(村人たち)に次々と酒、つまみを勧められ・・・・

「あら、美味しいわね。これ」
「やだ、これどこで手に入れたの?」
「あ、これも美味しい」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
「もちょっと注いでよ。なみなみと。気前よく・・・」

杯を次々と干しては。
裂きイカをしゃぶる彼女。

これが・・・。これが・・。

俺が生まれて初めて愛した女か?



認めたくはないが、

彼女は見事におっさん化していた・・・


嗚呼、嗚呼

昨晩のあのな雰囲気はどこに行った。

存分に語り合い、与え合い、分かち合い、そして愛しあった。
俺の腕の中で悶え、俺の与える刺激に反応し、俺と共にイッった。
あの可愛い可愛い彼女は・・・・!!!




目に映るは、ただヨッパゲのみ。
あの濃厚な恋人たちの世界は、遙か百万光年先のモノと成り果てた。





俺はこんな光景
 見てない
  信じない


しかしいくら目を瞑っても、トリップしようとも。
酔っ払い達の様子は、耳を伝って脳に伝達され・・・・。


嘘だといってくれ・・・・





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