ある食卓の光景 〜疲労回復には糖分を 〜


「今日は少しいいものがあるの。」

相変わらずの芋メインの昼飯を平らげ、またまたモシャモシャ感に苛まれていたレイは
嬉しそうに微笑むマミヤの台詞に首を傾けた。

いいもの・・・だと?

無言で問いかけるレイ。

皿を片付けながら、マミヤはとても楽しそうに、幸せそうに・・・。

「貴方もきっと気に入ると思うし。
最近疲れてるみたいだし、これで元気になってね。」

「ちょっと待っててね。」
と、マミヤは部屋を離れた。


いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。これで元気に・・・。
 いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。これで元気に・・・。
  いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。これで元気に・・・。
   

前回の反省も何処吹く風と、またまた妄想ワールドに足を踏み入れるレイ。

ここにリンがいれば、
「レイー、逝っちゃイヤ〜!!!」
と突っ込んでくれるところではあるが、
不幸なことにこの場はリビング。二人以外の人間が用もなくここにいるはずもなく。
従ってレイの妄想は中断されることなく順調に進んでいった。


    いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。これで元気に・・・。


も、もしや!!!



たり
一筋の液体が、伸ばされた鼻の下を赤く染めた。

 いくらなんでも真昼間からワインは出てこないだろう。
と、言う事は?
 
      
お前か?今度こそお前か?

ブシューッ!!

勢いよく飛び出る血、血、血。
テーブルを、椅子を、絨毯を、床を。赤く赤く染めていく。

ここにバットがいれば、
「いやいや、あんた真昼間からそっち方向にもってくなよ。」
と突っ込んでくれるところではあるが、
不幸なことに(以下省略)


唯一幸運だったことは、マミヤが流血沙汰に慣れていたこと。

キッチンから戻ってきた彼女は、部屋の惨状を見て軽く眉を上げただけで
次の瞬間には何も無かったようにレイの元に向かった。

「もらったんだけど、手作りよ。
とっておきなの」

 レイの正面に置かれた皿の上には、長方形の物体がどっかりと鎮座していた。


「マミヤ・・・」
「どうしたの?レイ?」
「なんだ、これは?」
「えっ?」

その物体を取り分けていたマミヤは、皿から目を離しレイを見上げる。

「なんだって、お菓子よ

語尾にハートマーク付で。

しかも。

にこっ。

と、微笑まれると。


うっ。可愛い。
彼女の周りにお花が咲き乱れるほど。
天使が彼女後ろでラッパ吹いてるほど。
芋も踊っているほど。

・・・芋・・・・・・?

最後の画像に全身を戦慄かす。
バカな、俺は何を考えている。こんな時に芋のことなんぞ。
毎食毎食喰って、俺は芋に洗脳されたとでも言うのか。



補足をしておけば。
レイは以前は芋が好きでも嫌いでもなかった。
というより彼にとって芋は主食、つまり肉や魚とかを彩るもので。
それ自体を主食としてみた事は一度たりともなかった。

しかし結婚してから毎日続く芋メインの料理に
すっかり苦手になってしまったのだ。

マミヤの手料理だからこそ食べるのであって、
他の奴が芋をレイの視界に入れようものなら、問答無用でシャオーなことは疑いがなかった。

さて、話を戻そう。



お菓子

その言葉はレイの鼓膜を心地よく響いた。
お楽しみは外れたが、甘いものはもともと好きだし。
マミヤの手作りとあれば喜んで頂戴しよう。
安心しろ、俺。今回は間違いなく芋の出る幕などない。
ところでこれはなんの菓子なんだろうか。

目で問いかけると、にっこりとマミヤが微笑む。

ああ、砂糖以上にお前の微笑みは甘く、甘く。俺を蕩かす。

メロ●パンナのメロメロパンチを受けたバイキンマンの如く

メーロメロメロメロメロ〜

となってたレイの緩みきった頬は、次の瞬間凍りついた。




お芋のお菓子なの。」

というマミヤの言葉によって。



「あっ。芋って言ってもジャガイモではない別のイモなんだけどね。
学名は IPOMOEA BATATAS、
CHU-Goku-では甘藷、Japonではサツマイモって呼ばれているの。
ジャガイモと比べて甘みが強いのが特徴でね。
お菓子作りなんかに使われるのがこのサツマイモ。主要栄養といえば・・・」


延々と続くマミヤのイモ講座。情報源は言わずもがな。



右から左に薀蓄を聞き流しているレイ。

それにしても・・・。


またしてもイモか。


イモ、いも、芋。
俺を待っているのはイモだけなのか・・・。



嗚呼。
俺のこのスレンダーな体型がイモみたいに丸くなったら。
イモ臭いとかアイリに言われたら。
芋伝承者とか笑われたら。


だが。
だが!!!


俺も南斗水鳥拳伝承者、義の星の漢、レイ。


愛するマミヤの手作りとあらば、
ウエストが数センチ増えようとも、
でんぷん臭いと言われようとも、
何と周囲に笑われようとも、

喰うしかない!!!


ズドーンと落ち込み、ブツブツと呟き、頭を振り、拳を固く握り締める。

レイの一連の動きを不思議そうに見た後。
マミヤはとどめの一撃を与えた。

「さぁっ。早く食べましょう。

長老お手製のイモきんつばは絶品よ。」



その後レイがそれを食べたかどうか。
それは誰も知らない。






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