ある食卓の光景 〜ワインと昆布は合いません 〜
あの芋騒動から。
俺は妥協してきた。かなり。
味噌汁は言わずもがな。
お好み焼きとご飯の組み合わせも。
茶碗蒸しにしいたけを入れることも。
餃子の餡にこんにゃくを混ぜることも。
だって、だって。
また例の「実家に戻らせていただきます」攻撃はご免だったから。
俺は耐えた。耐えてきたのだ!!!
しかし。今回は。
到底見過ごすことなどできぬ。ワインに昆布など!!!
俺の発言を受け、案の定、彼女は小首を傾げて、こう宣った。
「美味しいわよ?それに昆布は栄養も豊かで・・・」
「旨いのは分かっている。栄養豊富なのも知っている。」
長くなりそうなマミヤの薀蓄を速攻で遮る。
その情報源は分かっているのだ、どうせあの老人だ。
またしても俺の前に立ちふさがるか、コンチクショウめ。
爺さんが陽だまりで猫をじゃらしながら、茶請けに昆布を楽しむのとは事が違う。
こちとら、新婚。
夜も更け、ラブラブ(←死語)同士がムーディーに酒を楽しむこの状況。
食事もしたし、さあ、次はお楽しみの時間だってな時に。
皺くちゃの昆布なんざ出されたら、こっちも萎えるわ!!!!
今回ばかりは、亭主の威厳を見せてやる!!
ゴッドファーザーにいつもやられて堪るか!!!
「ともかく、俺はワインのつまみに昆布なんぞ認めん。絶対認めんぞ。
昆布なんぞ、つまみで食えたものか!断じて許さん!!!」
と、テーブルを激しく叩いた。
が。
また勢いがついてしまったようで・・・。
次の瞬間、衝撃に耐え切れず問題の昆布のみならず、ワインの壜も倒れてしまった。
ガッシャーン!!!!
けたたましい音ともに壜が割れ、赤い液体が床に染みをつくっていく。
(ひぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーー!!!)
・・・・・・
まずいなんてもんじゃない・・・。
恐る恐る、マミヤの顔を見上げれば。
な、なんと。彼女の背後にいるのは!!!
砕けた酒瓶を悲しそうに眺めているディオニュソス(バッカス)の姿。
こ、これは真の哀しみを背負った者のみが体得しえるという究極奥義、無想転生!!!
マミヤ、すまない。俺のつまらないこだわりの所為で。
酒を割ってしまったことが、まさかお前にこれほどの哀しみを与えてしまうとは・・・。
かくなる上は・・・。
アイリ、先に行く兄さんを許せ。
マミヤ、酒に縛られたどこまでも哀しい女よ。
俺の命、お前に捧げよう・・・。
さて、この後の事はここでは語るまい。
言葉にすると、悲しみが増すから・・・(LOTR レゴラス風で)
ただ、その後数ヶ月。レイの姿は村から消えうせた。
そしてマミヤの村から、遠く離れたある農場で、
「あの若いバイトの兄ちゃん、すげーなー。
まるで鋭い刃物で切るかのように、ブドウをスパスパ収穫していくぜ。
三食昆布しか食べてないあの細っこい身体のどこに、あんな力があるのかねー?」
と噂になっている漢がいたとか、いないとか。
酒を粗末にするヤツは、例えレイでも許さん!! By 管理人
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