ある食卓の光景〜アルコールは二十歳を過ぎてから〜
今日は少しいいものがあるの。
相変わらずの芋メインの夕食を平らげ、そのモシャモシャ感に苛まれていたレイは
嬉しそうに微笑むマミヤの台詞に首を傾けた。
いいもの・・・だと?
無言で問いかけるレイ。
皿を片付けながら、マミヤはとても楽しそうに、幸せそうに・・・。
貴方もきっと気に入ると思うし。一緒に楽しみましょ。ちょっと待っててね。
と、マミヤは部屋を離れた。
いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。一緒に楽しむ・・・。
いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。一緒に楽しむ・・・。
いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。一緒に楽しむ・・・。
人間の三大欲求の一つである食欲を満たしたレイだったが。
マミヤの(彼が思うに)思わせぶりな台詞に別の欲望のスイッチをONされた。
いいもの・・・。俺の気に入るもの・・・。一緒に楽しむ・・・。
も、もしや!!!
たり
一筋の液体が、伸ばされた鼻の下を赤く染めた。
お前か?お前か?
誘ってるのか?
デザートは如何?さあ、私を召し上がれとか?
玄関(扉)開けたら、お前でアハンとか?
新しい下着で、「ドーンと来い!!」とか?
黒だったらいいな、
いや白も捨てがたいが。
いっそのことピンクとか・・・紫・・・萌黄色・・・。
100メートル3秒フラッシュの速度で、妄想爆走中のレイの目の前に置かれたもの。
知り合いからもらったんだけど、コレだけしかないの。
皆には内緒よ
それは1ダースのワインだった。
ハッ!!!
気合と共にワインのビンの口を手刀で切り、
幸せそうに中身をグラスに注ぐマミヤ。
酒かよ・・・
内心の失望を隠しつつ、マミヤが差し出すグラスを受け取る。
実はマミヤは酒好きだ。
あまり村人の前では飲まないが、かなりの酒豪だ。
やれ、一升の酒を飲んでケロッとしていた、だの。
8時間エンドレスで飲んでた、だの。
ガンマ値が基準値ギリギリ、だの。
別の意味での武勇伝も数多くあるということは、結婚してから知った。
聞けば、長老の晩酌に付き合って今までちょくちょく飲んでいたらしい。
ちなみに彼女の好物は、芋と蛸わさと銀杏と焼きなすと枝豆と冷やっこと・・・
一番初めを除いて、ALL酒の肴系であった。
今年のボージョレーは結構いけるわよね〜
とか言いながら、ぐいぐいとグラスを空けるマミヤ。
常にまして上機嫌な彼女の姿に。
まあ、いいか
と思ってしまうレイは、結局なトコロ、マミヤに甘いのである。
それに。
グラスに注がれる美酒。
その芳醇な香りが鼻腔を擽り、喉を潤していき、レイを酔わす。
そして、何より。
グラス越しに見える彼女。
少し頬を赤らめ、うっとりとしたマミヤの姿。
それはワイン以上にレイを酔わせた・・・。
最愛の女性を鑑賞しつつ、レイが次のグラスを空けるまでに
マミヤは既に2本を空にし、3本目に差し掛かろうとしていた。
早いな・・・
よく飲む。
本当によく飲めるものだ。しかもつまみも無しで。
自分も決して酒に弱いほうではないが、
アルコールオンリーと言うのも、正直キツイ。
マミヤ・・・
うん?どうしたの?レイ?
小首を傾げる仕草も殊更愛らしく見える。
彼女の周りにお花が咲き乱れるほど。
天使が彼女後ろでラッパ吹いてるほど。
芋も踊っているほど。
どうやらディオニュソス(酒の神)はレイを確実に捉えつつあるようだ。
イヤ。なにかつまむものがあれば。折角の旨い酒だしな。
あ、そうね。ごめんなさい。私ったら気がつかないで。
普段食べずに飲んでるものだから。つい・・・。ちょっと待っててね。
ほぼ2本空けたにも関わらず、全く平然とした足取りで、台所に向かうマミヤ。
・・・
あいつ。
俺より(酒に)強いんじゃ・・・
ブンブンと首を振り、その思考を脳から追い出す。
これは見栄ではない。男としてのプライドだ!!!
とりあえず、食べ物を胃に入れて巻き返しを図ろうとするレイに。
お待たせ。こんな物しかなかったけど、いいわよね〜。
とマミヤがテーブルの上に置いたもの。それは
昆布だった。
・・・・
またこういうオチかい!!!