紅い月



深い、深い眠りから目が覚めた。
真っ暗。
何も見えない。

ただ窓から見える月が紅い光を放っていた。


美しいけれど、
どこかまがまがしい月
その光に、
少し震えた。 




眠らなければ、
まだ日明けまで時間がある
明日も早い 

眠ろうとすればするほど神経が冴える 
身体は疲労を感じている
休息を求めているのが分かる

しかし、
どうしても再び眠りにつくことが出来なかった。 




目に入るは、
月光 



落ち着かない
眠れない



その紅さに あの男を思い出す、
紅い
紅い



ただの月の筈なのに
恐怖さえ感じた



思わず横に目をむけると、
対照的に
そこには蒼の世界が広がっていた 



レイ 

美しく長い髪を広げ
自分を抱きしめたまま、
まるで子供のような安らかな表情で眠っているレイ 

愛しい人のぬくもりに
高まった精神が落ち着いてくるのを感じた






あの時。

死兆星を見た、
 明日のない、
未来のない私に。 



彼は言ったのだ。


 
動揺し泣きじゃくる私を優しく抱きしめ、
頭を優しく撫でながら

 「かまわない」

と。 





お前が死に逝く運命でも、
俺の気持ちは変わらん。
お前の頭上に死兆星が落ちるその時まで
お前が少しでも心安らかに過ごせるように 

俺がヤツを討つ 



私を抱きながら、
何度も何度も繰り返し 

マミヤ、お前の明日は俺が守ってやる
と 。




有難う、レイ
貴方のその気持ちだけでこんな世の中を生きてきて良かったと思える 

そしてごめんなさい、レイ
でも今は
私は 



明日なんていらない。
未来なんて欲しくない。 

ただ、どうか、この夜が すこしでも長く続いて欲しい。

 明日なんて来て欲しくない。
未来なんて必要ない。
貴方が隣にいない未来なんか。

 
だから、
どうか、
このまま、

時間が止まってくれたなら。 



レイの髪を指に絡ませ 
その胸にそっと身を寄せる

レイの体温を感じながら

そっと目を閉じた 


これ以上紅い月を見ないように 





かなわない願いを胸に




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