私の願いよ、私はあなたへの愛に生まれてきた。
しかし私の星は不運だった。
そら、
彼女から私に吹く風は冷たく、
私の前にある緑をすべて枯れさす。
アブー・ヌワース 「あるいは」から
Wither
何故俺ではいかんのだ!!
一気に杯を空けると、叩き付ける様に杯を円卓にと戻す。
その荒々しい行動に
深紅の液体はグラスから飛び出し、
数滴がレースのテーブルクロスに染み込み、グロテスクな紋様を描く。。
傍らに控えていた侍女が身体を強張らせるのが
空気を通して分かり
ますます俺を不愉快にさせる。
純白のクロスについた赤黒い染みから目線を女どもにと向けると
そこには「恐怖」の表情がくっきりと刻まれていた。
眉間に皺を寄せ
「もうよい、下がれ!」
声も荒く命令すると
そそくさと、立ち去る女ども。
誰もいなくなった広い部屋で
グラスに注がれる酒の音だけがいやに大きく響き渡った・・・。
何故俺ではいかんのだ!!!
先ほどから脳内を回るは、この台詞のみ。
ただただ。
酒を呷る。
出口の見えない迷宮に取り残されたような苛立ちと焦燥感が
絶え間なく俺を苛み。
幾ら酒を飲んでも、
酔うことは決してなく
思考はますます冴え渡るだけ。
分かっている
本当は分かっている。
何故俺ではいかんのか
本当は分かっているのだ。
その理由も答えも。
俺がどれ程抗おうとも、がむしゃらになろうとも、努力しようとも。
叶わぬ想いだということは。
しかし。
それでも。
彼女を愛している。どうしようもなく。
彼女の想いも。気持ちも。愛も。
すべてが俺を裏切り、俺を絶望に落としても。
それでもなお・・・・。
俺は・・・・・・。
「何故だ・・・。何故俺ではいかんのだ・・・・」
その声は悲痛なまでに弱々しく・・。
彼自身の耳にも入らぬままに
夜の静寂の中へと消えていった。