愛する―それはお互いに見つめ合うことではなくて、
いっしょに同じ方向を見つめることである。

 

サン・テグジュペリ


 

名句で妄想 Vol 11 愛の形










「私に残された時間は後僅かです」



沈痛な面持ちで口にした言葉。
暫しの沈黙がその場を支配する。




ラオウが秘孔をついて、しばし命を永らえさせたとはいえ。
この身体に巣くう病魔は消え去った筈もなく。

定期的に襲い来る傷みと倦怠感が私を蝕んでいく・・・・。






「貴方と共にいたかった。時を重ねていきたかった。でも私はいずれ貴方を置いて行ってしまう。」



そう、これは避けれれない運命。逃れられない終末。


「私は貴方の元から離れたほうが良いのかも知れません。
いいえ、離れるべきなのです」

貴方に絶望をもたらす前に・・・・・。








力なくユリアは笑う。
それは時代に翻弄された己の運命にか。
病の原因となったあの愚かしい戦争にか。
彼の一途な、そして愚かしいまでに真摯な想いへか。
それとも。
このような状況でも、彼の言葉を望んでしまう自身への弱さにか・・・・。




未練がましいこと・・・・。

無意識の内に固く握り締めた拳を。
一回り大きな手が包む。

暖かく。優しい手が・・・・。













「ユリア、共に生きよう」



弾かれたように顔を上げる。
その視線の先には。


ケンの優しい微笑が・・・・。
春の陽光の如き笑顔が、私を照らす。

「ユリア。俺と共に生きよう。」






繰り返される台詞。
心のどこかで望んでいたその言葉。
甘美な思いが体中を駆け巡る。

しかし。


「ケン。私の言うことを聞いていて?私に残された時間は後わずかなのです」







気力を振り絞って口に出す言葉。

ああ、ごめんなさい。ケン。
私も貴方と共にいたかった。ずっと。ずっと・・・・。
でも。私の命の灯火は、いつ消えるとも分からなくて・・・。

















「だから、なんなのだ?」

冷淡とも感じられる調子で、言葉を発するケンシロウ。


「お前に残された時間が限られたものであったとしても。
俺の気持ちは変わらん。
俺はお前と共に生きて生きたい。
俺はお前と共にこの世界を感じたい。
俺はお前と共に未来を見据えて行きたい」


「お前は嫌か?俺と共に生きることが・・・・」



!!!!!!


イヤなんてはずがない。


でも・・・でも。私は・・・。


返答できない私。
そんな私の肩を優しく包み込んで、ケンが言う。













「俺はなかなかに周りに誤解されやすいタイプのようだ。
かつて共に過ごしていた者からも言われたものだ。
『もう少し感情を表に出した方が良い』と。
その辺りでお前が俺のフォローしてくれると有難いのだが・・・。」


目をしばたいた私に、悪戯っ子のような表情を浮かべてケンが言う。


 





「ユリア、共に生きよう。
終焉に向けてではなく。
明日の、未来の為に。
この世紀末の世を、二人で生きていこう・・・」


















必死で涙を抑えようとするが、うまくはいかず。

瞳から零れ落ちた涙は頬をぬらし、大地に黒い染みを作った。






無骨な指で涙を払うケンの指・・・・。

その指に自分の指を絡ませ、固く握り締める。



「ユリア。俺と共に生きてくれるか?」







耳元でささやかれる愛する人の言葉に、


「はい」


私は頷いた。













共に生きましょう。最期の時まで。
共に生きましょう。この世界を。
お互いを見つめ合うのではなく。
一緒に同じ方向を見つめましょう。





それが貴方と私の



愛の形。






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