ラオウとの死闘の末。
天国に召された俺は、なんだかんだで死後の世界とやらの生活に順応していた。

酒もなけりゃ、コレといった娯楽もねえ。退屈極まりない場所ではあるが・・・。
しかし闘いだの小競り合いだのややこしいことはねーし。
昼寝するにゃあ、うってつけの場所だ。
地上に残した彼女のコトを考えなかったといったら嘘になるが、
なに。問題ねえ。ヤツが側にいるんだから・・・・・。

ぐーたらと毎日を過ごし。
気づけば死んでから一年が経とうとしていた・・・。



その時・・・。

  



突然。
穏やかだが、抗えない力に引き寄せられた俺は・・・。

気がついたら、雲のように空中を漂っていた。




  



いきなりの展開に目を丸くして周囲を伺うと・・・。



墓の前で涙を流す彼女の姿があった・・・。





名句で妄想 No.7 俺は満足だよ




なんだよ。めそめそしやがって・・・・。



自分の墓の前で静かに涙を流す彼女の後姿を、少し離れた場所から見つめる。
その細い肩が震え、嗚咽が漏れる・・・。


全く湿っぽいたらありゃしねえ。
お前の泣き顔なんざ見るために、俺はわざわざ昼寝を中断させられて連れて来られたってのか?







彼女は涙を流し続ける。
墓の前で蹲って・・・。

親とはぐれた幼子のように・・・。
無防備に。







ユリア・・・。



届かぬとは分かっていても、思わず声をかけずにはいられない・・・。



折角世の中が平和になったんだ。
愛する男と幸せに過ごせる時がやってきたんだろ?
だったら、死んじまったヤツのことなんか忘れて楽しく暮らせっつーの。




しかし、その声は、願いは、想いは。

彼女に届くことなく

風に乗って舞い散ってしまう。






しかし。

それでも。
どうしても。
何とかして。

伝えたくて。届けたくて。

伝わる筈のないメッセージを紡ぐ・・・・・。




俺はお前には笑っていて欲しいんだ。
俺はお前には幸せでいて欲しいんだ。










ごめんなさい。ごめんなさい。兄さん・・・。



俺の気持ちとは裏腹に、嘆き悲しむ彼女。

謝罪の言葉を呟きながら、背を丸め、細い身体をますます小さくする。
絶え間なく瞳から流れ落ちる涙は、
頬を、あごをつたって大地に黒い染みを作る・・・。




なあ、ユリア?お前なんか勘違いしてねーか?
お前が俺は決して後悔なんざしてねーぜ?

お前が謝ることなんてなんもねーっつーの。



しかし・・・






ごめんなさい・・・・。




涙ながらの言葉に、正直俺は辟易した。




駄目だこりゃ。
あ〜、あ〜思いつめちゃって、まぁ。
しっかしどっからそんな後ろ向きな姿勢になるかねえ・・・。あ・・・・・・・・





ふと、脳裏に煌いた光景・・・。



あれはいつのことだっただろう・・・



遥か昔・・・


一体いつのこと・・・





そうだ。

まだ俺達が幼かったころ。






珍しく三人集まった俺達は、特にすることもなく思い思いに時間を過ごした。



俺は身近なソファーに座ると、向かいのテーブルに足を預けて先ほどかっぱらってきたリンゴを齧る。
その近くで。
行儀が良いとは言いかねる俺を横目で睨みつつ、リュウガはユリアに小難しそうな本を読んでやってたっけ。



リンゴを食い終わり、手持ち不沙汰になった俺はその本を斜めから覗き込む。
が。
小難しそうな文章に一瞬に興味を失い、深々とソファーに身を沈めると昼寝の体勢に入った。


その時・・・。





『愛は最高の奉仕だ。
みじんも自分の満足を思ってはいけない』




思わず耳に入ったその台詞に、閉じかけていた瞼が開いた。

ユリアを見れば、きょとんとした様子で・・・。



暫しの沈黙の後、「リュウガ兄さん、それどういう意味なの?」 ユリアが尋ねる。

「愛にも色々な側面があるということだ・・。」

「どんな?」


ユリアの問いにヤツは直接の回答は避け、ただ彼女の頭を優しく撫でた。






「いつかお前にも分かる時がくる。お前の星の運命がそう導くであろう・・・」









まさかとは思うけど・・・
お前、あんなくだらねー言葉覚えてたんじゃねーだろうな。
しかもそれを、あの時の俺に重ねたとかいうつまらねーオチじゃねーよな?
俺がお前への愛の為に自己を犠牲にしたとかなんとか思ってんじゃーねーよな?
まさかとは思うけど・・・







わ、私は。兄さんの想いを利用した・・・。兄さんを利用した・・・。兄さんを犠牲にした・・・。



涙を流し続けるユリア。






・・・・・・・・・・ビンゴ!!
そのまさかってか・・・。














ったく!ふざけんなっつーの。



愛なんて曖昧なモノに奉仕するほど俺は真面目でもねえ。
愛する人のためとか何とか言って命を投げ出すほど酔狂でもねえ。




俺は俺の意思でラオウに闘いを挑んだんだ。
お前の為だけじゃあねえ。
小うるさいリハクの爺さんの小言に背を押されたわけでもねえ。
馬鹿兄貴の遺志なんて俺には知ったっちゃねえ。
ましてや、世界の為、平和の為なんてご大層なモノのためでもねえ。

俺は俺自身で決めたんだ。ヤツとの対決を。
そのキッカケを与えたのは確かにお前だったとしても・・・。










なあ
知ってるだろ?


俺は雲のジュウザ。
誰にも縛られず、拘束されず、雲のように自由気ままに生きる漢。
俺の自由意志で俺は自分の道を選んだんだ・・・。











だーかーらー。
お前がそんなに気に病むことなんかないんだよ。
全く辛気臭え。めそめそすんなよな。
涙なんか流すな。言っただろ?お前には笑って欲しいんだ。








幼子のように泣き続ける彼女の元に近づくと、そっとその肩を抱いた。
触れることの出来ない身体、届くことのない言葉、伝わることのない想い。


それでも・・・。

彼女を抱きしめる。優しく。包み込むように・・・。








俺の墓に供えるものは、お前の笑顔だけでいい。
それと上等のウイスキーがあったら言うこと無しだぜ?

パーっと楽しくやってくれや。綺麗なおねーちゃんも呼んでさあ。
嫌、お前だけでもイイんだけどな。
あ、でもあの眉毛はごめんだぜ?




おえっ!!!っと、自分自身が放った発言(最後の部分)に思わず不快になってしまった。


眉を顰めながら、あの眉毛のイメージを脳内から追い出そうとしたとき・・・。
彼女の手に自分の手を重ね合わせようとしたとき・・・。




身体に纏わる空気が変わった。






ちっ、なんだよ。タイムオーバーかよ。




思わず舌を打つ。
忌々しげに。





全く、どこのどいつが仕組んだのかは知らねーがよ。



最後とばかりに、再び彼女を抱きしめる。
優しく・・・。
雛鳥を包み込むように・・・。








時間制限があるならば、はなっから教えて欲しかったもんだ・・・




名残惜しげに彼女から離れると。

先刻自分をこの世に送り出した力の波動に身を委ねた・・・・。





暫しの後。


ふわり


宙に浮き上がる身体。



ああ、彼女の姿が遠ざかっていく・・・。







薄れゆく意識の中で、最後の力を振り絞って言葉を紡ぐ・・・。




最愛の女に向けてのラストメッセージ・・・・。







な、お前は笑っていてくれよ?それが俺が一番望んだことなんだから・・・・




次の瞬間。
俺の意識は深い闇の底へと落ち、光は消えうせた。

















兄さん?




弾かれたように顔を上げるユリア。

その声に答える者はなく。

ただ優しい風だけが吹いていた・・・・。






Inspired By 群崎様 ジュウザ&ユリアイラスト





※5/2群崎様からお許しいただき、イラスト掲載させていただきました。ほんま有難うございました!!!!
素敵なイラストが見れる群崎様のサイトはこちらから・・・。  
行かないと損しますよ。珠玉の作品がてんこもりっす・・・。



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