煌々と地上を照らす太陽よ

教えてくれまいか。

何故この世は絶望の淵にありながら
これほどまでに光に満ち溢れているのだ。


「皆で植えた花が咲いたんです。とっても良い匂いで。シュウ様も来てみて下さい」

サリ達に半ば引っ張られながら。
町はずれの花壇まで足を運んだ時のこと。


泣き声が聞こえた。



名句で妄想 No.5  



足を止め。振り返えると。

一人の子供が、まるで隠れるように木の下で膝を抱えていた。
小さな身体を更に縮こまらせて。

ぽたぽた、と。

絶え間なく涙が落ち、地面に黒い染みをつくる。

その子の周りには誰もいない。
父親も、母親も、兄弟も。

一人ぼっちで涙を流し続ける、まだ年幼い少年。



ああ。

今までに幾度となく出くわしてきた光景。

シュウはすぐに分かった。

ある町が強襲されるとの情報を得て。
急遽その地に人を派遣するも、間に合わず。
レジスタンス軍が憔悴しきって戻ってきたのは、つい先ほどだったから。


呻くような泣き声を耳にしながら、シュウはやりきれない思いがこみ上げてくる。



目の前にある、冷たい現実。


未来を担う子供たち。
この哀しい世紀末の世を照らすかけがえのない光。

いつになったら、皆が幸せに暮らせる時代がやってくるのだろうか。

いつになったら、皆が平和に過ごせる日がやってくれるのだろうか。

一体いつになったら。

子供たちが笑顔を取り戻せるのだろうか。





つらかった。

どす黒い感情が身体を支配する。
焦燥感と絶望に、身を切られる思いがした。



「シュウ様・・・。あの子。もしかして・・・」

遠慮がちにリセキが問いかける。


西の町が襲われ、生存者は僅か一人。
両親が身を挺してわが子の命を救ったという・
・・。

サリもリセキも、他の皆も。幼いが聡明な子供たちだ。
恐らくそのことを聞きだしているだろう。
いや、知っているからこそ、私を慰めようと連れ出したに違いない。

今の自分には。
言い繕うことも、隠すことも出来ず、
真実を述べるすべしか知らない。


「ああ。あの西の町の・・・。生き残りという子供だろう・・・」

「あの子も一人ぼっちになってしまったんですね・・・」

「・・・ああ。」

「僕達みたいに・・・」

「・・・ああ。」

「お父さんやお母さんを失って・・・」

「・・・・・・ああ。」

自分の声が、徐々に小さく低くなる。

そう、この子達も。
いやこの町に保護された子供たちの大半は。

同じような境遇を辿って来たのだ。

唐突に、そして理不尽にも。
最愛の身内を奪われたのだ。


いきなり。


サリがその子供の元に走り寄った。

「しっかりしろ!」

突然の大声に、小さな身体が、ビクン、と跳ね上がり。
おずおずと顔を上げた拍子に、新たな雫が地面にと落ちる。

驚く私を置いて、他の子供たちも少年の下に駆け寄る。

「お前はこれからも生きていかないといけないんだ!」
「そうよ。いなくなった人たちの分まで精一杯にね!」
「お前の気持は痛いほど分かるよ。
俺だってつい数ヶ月前に同じような思いをしたからよ・・・。」
「でもな!諦めて、絶望したら。止まっちまったら。前に進めねーんだよ!!」
「お前は決して一人じゃない。シュウ様がいる。皆がいる。俺たちもいる!」


「だから下を向くな!空を見上げろ!!!!!!」


口をそろえてそう叫ぶ子供たちの言葉に。

弾かれた様に、少年は空を見上げる。頭上に広がる、高く、蒼い空を。



「綺麗だろ?空は。」
「広くて、青くて、澄んでいて・・・」
「あの白い雲。キリンみたいな。どれか分かるか?」
「風も感じるか?」


「うん・・・・・・」

小さいがはっきりとした少年の呟きを耳にして。
ルイがワシャワシャと少年の髪を乱す。


「ほらな。空を見れば下を向かない。」

「日の光も見える」

「照らされて周りも見える」

「自分が決して一人じゃないことが分かる」

「まっすぐに道を進むこともできる」

 

「だから、これからは。何かあっても。どんな時でも・・・・」

「下じゃなくて、上を。空をみようぜ。
  みんなで。一緒によ!!!」

 



何故この世は絶望の淵にありながら
これほどまでに光に満ち溢れているのか。

その解(こたえ)が分かった気がする。

この哀しい世紀末の世を照らすかけがえのない光。
未来を担う子供たち。


彼らがいるから。

 

子供たちのやり取りを、身動ぎもせず聞くシュウ。

先ほどまで自身を襲っていた絶望はいつの間にか消え去っていた。


聖帝十字陵の最後の礎を運ぶべく、遙か頂を目指す私の耳に。

「シュウ様・・・」
微かではあるが、声が飛び込んできた。

つい数日前までは、私の周りで笑っていた子供たちの声。

ああ、そこにいるのか。お前たち。
安心しろ。私は必ずお前たちを守ってみせる。

この世界を照らすかけがえのない光を守るためならば。

この命など、惜しくはない。







「シュウ様・・・」

震える声。

フッ、どうした。皆。いつもの元気はどこへ行った。



「今日は晴れているか?」

「え?」

「今日は晴れているのか?」

同じ台詞を再び口にする。

「シュウ様?なんで。なんで、今そんな事を・・・?」

今にも泣き出しそうな声。

お前たちが悲しむことなどない。
これは私の。南斗白鷺拳伝承者、「仁」の星の下に生まれた私の宿命。
そして南斗六星の崩壊を阻止できなかった私の罪のあがないなのだから。

これは私一人が背負うべきもの。




 『空を見れば下を向かない』 
  『光も見える』 
   『周りの人も見える』 
    『自分が決して一人じゃないことが分かる』 
     『まっすぐに進める』

「 ・・・確かそうだったな。」


「!!!!!!」





「それで、空は晴れているのか?」

 「・・・はい!!シュウ様!!とても。とても晴れてます」

「空は青いか?美しいか?」

「はい!!!とっても青くて、綺麗です」

「それは良かった。光は?」

「はい!!!眩しいくらいにキラキラと輝いてます!」

「そうか・・・・・・」

満足げに子供たちの方に向き直るシュウ。




「お前たち、下を向いてはいけない。
 如何なる時でも。
  上を。
   空を見上げるのだろう?」

 

「・・・・・はい。 はい!!!」

「みんなで。」

「みんなで一緒に。」

「必ず前を。」

「上を、空をみます」

「これからも。ずっと、ずっと。」

 しゃくりあげながらも。
力強く言葉を続ける彼ら。




ああ。私の子供たちよ。

そう。それでいい。

お前たちは。
哀しみにとらわれることなく。
憎しみに汚されることなく。
絶望に身をおとすことなく。

立ち止まらずに。
真直ぐに生きて欲しい。
上を向いて。


上を見上げた彼らの目に映ったシュウ。


その顔には。

とても幸せそうな笑顔が浮かんでいた。



気を落とさないようにしなさい。
見てごらん、空は、なんときれいに澄んでいるのだろう。
私は、あそこへ行くのだよ

Inspired by J J ルソー
死に際して妻に贈った言葉より



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