喜劇と悲劇
それは相反するもの。
それは同一なるもの。

ある一つの事象がおこっても
周囲にとっては笑い事だが、
当事者にとっては笑い事ですまないことがあるのだ


(Nojika語録3章 足の小指強打したら笑われたよ、コンチクショーより)

白衣の悪魔現る! Vol.5

 

もはや両者には現状に立ち向かう力は残っていなかった。

未だ止まらない、血。
包帯どころか、寝台どころか、部屋のいたるところ、赤一色だ。
選択、掃除云々の話ではない。
松居○代さんでもこの惨状を片付けることなどできないだろう。



濃厚な空気の中、その部屋では時間が止まっていた。


向かい合いながら、二人は、ただただ呆然と、その場に立ちすくんでいた。




プップップップップップップップップップップップップップ

プップップップップップップップップップップップップップ



時計の針の変わりにレイの出血が時を刻む。







常ならばどのような状況にも冷静な彼女も
立て続けに起こるハプニングの数々(原因は100%彼女なのだが)にKOされ、
まだ動かない。否、動けないのだ。


そしてレイといえば、レイは肉体疲労に加えて精神的ショックから。
同じく動けないでいた。


プップップップップップップップップップップップップップ

プップップップップップップップップップップップップップ

プップップップップップップップッ、プッシュー



・・・20分経過。



ようやく頭が動き出したのか、マミヤがレイの流れ続ける血を抑えようと、
部屋にあった布をのろのろとあてがう。

すまんな・・・と軽く礼を述べるレイ。
布を見れば、埃溜まりまくっていて、かなり強烈な臭気を発していた。
しかも、ところどころに動物の毛が。


フッ、バットがペルを拭いてた布か・・・

ニヒルに口元をゆがめるレイ。


もはやこれしきのことでは騒がない。というより、騒げない。

なんと言っても、ここ数年分の恐怖をこの一時間に一気に味わったのだから。

この際傷口を押さえているのが、犬の雑巾だろうが、オムツだろうが

軽いものだ!!!


今までの俺はまだまだだった。なっちゃいなかった。
数々の修羅場を潜り抜け、地獄を見てきた気になっていた。
が、俺は真の恐怖を知らなかった。
礼を言う、マミヤ。ありがとう。

思わず、目頭が熱くなってきた。
反面、身体は冷たくなってきた。(←血の流しすぎ)


目頭をそっとぬぐうと、ゆっくりと寝台に腰掛けた。
流石に何時までも呆けている訳にはいかない。
己の身体がすぐに適切な治療をしなければ危険なレベルまで達しているのが分かる。
ここはマミヤに早々にお引取り頂いて自分で治療をしないと。

「もう大分楽になった、有難う、マミヤ。」

「で、でもこんなにまだ血が出てるし」

「いや、本当に大丈夫だ。もう今日は遅い。お前も休むがいい」

むしろお前がいないほうが大丈夫。とは流石に惚れた女には言えないレイ。
途切れそうになる意識を必死でつなぎとめつつ、
出来るだけ言葉をオブラートにつつみつつ、
なんとか、マミヤを帰らせようとするレイ。

「俺のことは心配するな。
フッ、俺はこれでも南斗水鳥拳伝承者だぞ?
こんなかすり傷は屁でもない。」

ニヤッとニヒルに笑ったつもりだったが、第三者が見れば、


どう考えてもこわばっている笑い

だったことはここでは述べないでおこう。


「で、でも。まだこんなに血が。」
「大丈夫だ、心配するな。それとも・・・」

少しばかし、身をかがめると、狼狽しているマミヤの顔至近距離から覗き込む。

「・・・お前が寝ずに俺に付き添ってくれるとでも言うのか?」

「!!!」

勿論これは冗談。

これは俺の最後の狙いだった。

真面目な彼女ならば、タチの良くないこの冗談に、少し怒りつつ部屋を後にするはず。


が、




・・・コクン

少しの沈黙の後、マミヤが小さくうなずく。


・・・ん?

「ま、まみやァーーー?」

声が裏返ってしまった。

「いる、今日はここにいる」

なっ!!ふざけるな、正気か、マミヤ。」

「ふざけてなんかないわ。本気よ」

「お、お前、それがどういうことか、分かっているのか!!?」


全く最近の若者の性の乱れは・・・。
シュウが一瞬乗り移ったかの台詞を呟く俺。

違う、違う、違う。そうではない。
本気か?マミヤ?もしやお前も俺のことが?
お前もようやく俺の良さに気づいたのか?
ようやく奴の眉毛が太すぎることにも気づいたのか?
いや、何を考えてるんだ、俺は。落ち着け。俺。



しかし彼女を見れば、その瞳には固い決意の光が。


マジ?



・・・落ち着け、俺。静まれ、心拍数。起きるな、息子


震える手で、真っ赤に染まった寝台のシーツをきゅっと握り締めるマミヤ。


息子、完全に起きましたーーー!!


恋愛の神よ、こんな状況で俺に微笑まなくて良い。
もっと俺の体調が万全で、且つ奴が帰っていないときまで
この権利は保留にしておいてくれ!!!



「レイ・・・」

潤んだ瞳で俺に手を伸ばすマミヤ。


前言撤回。

Fall In Love♪
ロマンスの神様 どうもありがとう!

震える彼女の肩に優しく手を伸ばし、そっと引き寄せようとする。

んあ?出血?怪我?んなもんたった今、治ったわ。
Nobody can stop me!!

「マミヤ・・・」
正に抱き寄せようとしたその瞬間。






「いくら貴方が言ったって、こんな重症人、
置いてけるわけがないじゃないの!!
村を救ってくれた貴方の手当てを、
村のリーダーの私がするのは当然よ。
だから、あなたは怪我人らしく、大人しく手当てを受けて・・・、ってレイ?レイ?」





次の瞬間。
マミヤが見たのは。
赤に染まった寝台にダイブしたレイの姿だった。


 


お・ま・け

レイ完全沈没。
その後、なんとか黄泉の国から生還した彼は
マミヤ特製のマグマ風おかゆを食べさせられる羽目になり
再び地獄の門を叩くことになる。




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