ほうじ茶日記 Vol 5 「〜の秋」 


うむ。 大分涼しくなってきたな。
日中はまだまだ32度を越える灼熱地獄だが、
一日、一日と日は確実に短くなっている。

秋はまもなくだな。




私は秋が一番好きだ。

木々が一斉に朱に染まり、空は高く広く、どこまでも蒼い(←心眼)
夕刻ともなれば真に良い風が吹き、虫の音が夜を彩る。


うむ、こんどの週末にはシバや近所の子供たちを誘って遠出でもするか。

友達百人と、FujiYamaの頂上でオムスビ
ばっくん、ばっくん、ばっくんと食べるも良い。

気持ちの良い風に感じながら、シュウは知らず頬に笑みを浮かべていた。


おや、秋を楽しもうというのは私だけではないらしい。
あそこで熱心に拳を振るっているのはシンか。
全く熱心なことだ。激しい稽古が終わってもまだこのように鍛錬を続けているとは。
うむ。「スポーツの秋」といったところか。


シュウの閉じた瞳の前に広がるは、鬼気迫るシンの姿。
どこからどう見ても

「スポーツ」などという雰囲気からかけ離れている。

爽やか、というより殺気に溢れている。



ばきぃ!!   

こっぱ微塵に破壊される木像、本日32体目
それら全ての顔の部分に、ふっとい眉毛が書き込まれていたことは言うまでもない。


やあ、サウザー。息災か・・・?ぅおぅ?

なんだ?どうした。リゾ。突然引っ張って。何をそんなに震えている。
それにそこに倒れている者は。一体。


落ち着け。深呼吸しろ。
お前たちに何が起こったのだ。そして、サウザーにも何が起こったのだ。


するめを片手に何か物思いにふけっているようだが。



なに?
お前の同期が田舎から大量に送りつけられてきたスルメを周囲におすそ分けし、
それをサウザーに渡した時に、


「俺に干物を渡すとは、おのれ、良い度胸だ!!!」

と、突然切れた、と。


ふぅむ。ヤツには干物に何かトラウマがあったのか。

ヤツの、サウザーの師匠は、大層厳しい方だったと聞く。
顎の修行として、四六時中食わされていたのではないか?

はっはっは。冗談だ。真に受けるな、リゾ。
しかし、なかなかこうしてみれば絵になるではないか。

スルメを片手に眉間に皺を寄せて考え込む渋面のサウザー

まるでロダンの「考える人」のようだ。
うむ、「哲学の秋」だな。はっはっは。


おや、どうした。レイ。へたり込んで。
何?お腹がすいて力が出ない

うむ、それは大変だ。
私は今、おやつ用のアンパン一つしか持ち合わせていないし・・・って。

そうか、そんなにアンパンが好きだったか。

ひったくるようにして(実際ひったくったのだが)
口にしっかりとアンパンをくわえて、走り去るレイ。

ああ、「食欲の秋」だな。


おや、珍しいなユダ。お前がまだ道場に残っているとは。
常ならば「汗を流さねば!!」などといって
真っ先に風呂に駆け込むお前なのに。

うん?何を読んでいるのだ?そんなに熱心に。
・・・そうか、それほど面白い物語なのか。
少しうらやましいな。
私は先の他流試合で光を失ってから、
人の動きは心眼で読めるものの、書物などにはすっかり無縁となってしまった。
それほどお前が没頭するとは、さぞかしすばらしい作品に違いない。
良ければそういう話なのかを教えてくれまいか?


・・・ふむ、
美と知略を併せ持つ、赤毛の美しい青年軍人と
その親友であり、半身ともいえるアイスブルーの髪の青年
との
交流を描きつつの、壮大なる物語とな?


ほう、なかなか面白そうではないか。タイトルはなんと言うのだ?

南斗義妖伝説か。

出版社はKado Riverか。

よし、覚えておこう。

邪魔して悪かったな。私は退散するので、「読書の秋」に勤しんでくれ。


ふむ。今日は拳士としてではない、新たな一面を見せてもらった。
少し得をした気分だな。



家路につきつつシュウは改めて思う。


やはり秋は良いものだ。と。



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