ええい、面倒だ。一気にUPしちゃえ。
B型 めんどくさがり管理人より、全ての北ターと太宰ファンに捧げます。
アフォ話、最終章。
括目せよ!!(しなくていいです)
走れ、ほうじ茶4 括目せよ、真の仁義とは
(注:これでも私太宰作品は大好き、な筈です)
シュウは四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、水の流れる音が聞えた。
そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。
よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が
湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにシュウは身をかがめた。
水を両手ですくって、一くち飲んだ。
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。
行こう。
肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。
わが身を殺して、名誉を守る希望である。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
日没までには、まだ間がある。
私を、待っている人があるのだ。
少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。
死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。
私は、信頼に報いなければならぬ。
いまはただその一事だ。走れ! シュウ。
私は信頼されている。私は信頼されている。
先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
シュウ、おまえの恥ではない。
やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。
ありがたい! 私は、仁の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。
ずんずん沈む。待ってくれ、天よ。私は生れた時から正直な男であった。
正直な男のままにして死なせて下さい。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、シュウは黒い風のように走った。
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、
犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。
一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。
「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」
ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。
その男を死なせてはならない。急げ、シュウ。おくれてはならぬ。
愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。
風態なんかは、どうでもいい。
シュウは、いまは、ほとんど内股走りであった。
周囲の人が彼を見て、ひそひそと呟く姿さえ、彼の目には映ってなかった。
はるか向うに小さく、市の塔楼が見える。
塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、シュウ様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」シュウは走りながら尋ねた。
「アイリでございます。貴方のお友達レイの妹でございます。」
その若い乙女も、シュウの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。
もう、兄をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、兄が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。
おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」シュウは胸の張り裂ける思いで、
赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。
走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。
兄は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。
聖帝様が、さんざん兄をからかっても、ピエロ呼ばわりしても、
シュウは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、
間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、
もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! アイリ。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走ってください。
ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走ってください。」
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、シュウは走った。
シュウの頭は、いつもに増してからっぽだ。
何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、
シュウは疾風の如く刑場に突入した。
間に合った。
「待て。その人を殺してはならぬ。シュウが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、
喉がつぶれてしわがれた声がかすかに出たばかり。
群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれた人物は、徐々に釣り上げられてゆく。
シュウはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、モヒカンよ! 殺されるのは、私だ。シュウだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、
ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく人物の両足に、かじりついた。
群衆は、どよめいた。
あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。
シュウは友にすがり付こうとしたがその身を止めた。
ん?誰だこれは?
レイはこんなに濃い顔をしていたか?
髪の色も夕焼けに彩られ、常の蒼髪が今は赤く見える。
アイシャドーを施した眼光鋭く、
その男は、その長い髪を三つ編みし、首元をスカーフで飾り、
口元にはお洒落にマスクをしている。(猿ぐつわ)
ん?な、なに?こ、これは。
もしや。
・・・違う、これはレイではない。
偽者か...
おのれ、何の知略だ、聖帝よ。
ようやく気づいたシュウは怒りの表情と友に親友の姿を探す。
群集を押しのけ、蹴り倒し親友を探すシュウの肩を。
大きな手が叩いた。
シュウが振り返ると。
其処にはまさしく己の友であるレイの姿が。
「レイ!!!」
レイを見据えて、シュウは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。
ちから一ぱいに頬を殴れ。
私は、途中で一度、悪い夢を見た。
めんどくさくなったし、どうせお前は他人だし。
いいやバックれちゃえ♪と思った。
それよりも可愛い息子と子供たちに囲まれて安らかに余生を
過ごそうと考えた。
人の噂も75日。3ヶ月も経ったらもう私の所業も忘れられて、
誤魔化されるだろうとマジで考えた。
お前がもし私を殴ってくれなかったら、私はお前と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
レイは、すべてを察した様子でうなずき、
シャオォォーと刑場一ぱいに鳴り響くほど声高くシュウの右頬を殴った。
シュウの右頬がざっくり切れ、朱に染まる。
殴(切)ってから優しく微笑み、
「シュウ、俺を殴れ。同じくらい音高く俺の頬を殴れ。
俺はこの三日の間、たった一度だけ、ちらとお前を疑った。
生れて、はじめてお前を疑いまくった。
原作での、親友という設定にも関わらず、
妹を救出して暇になった後もお前の助けにも駆けつけず、
更には作中でお前の名前を一回でさえ出さなかった、
どう考えても親友じゃねーだろ、という俺に
仕返しをしようとしているのではないかと俺は疑った。
年の離れた遠くの親友より、近くのいい女との生活を選んだ俺を
許していないのかと疑った。
ケッ。ガキの世話むさい男に囲まれレジスタンスの手伝いなんざ
やってられっかよ、知るか知るか。とお前を忘れた俺を
憎んでいるのではないかと疑った。
…あんまり疑ったのでここのバカを騙して気絶させ、
俺の身代わりに磔台におくったほどだ…。
お前が俺を殴ってくれなければ、俺はお前と抱擁できない。」
こくりと頷き、
殴れといわれているにも関らず、シュウは脚に唸りをつけてレイの腹を蹴った。
「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
猿ぐつわを取り去ったユダは青筋を立てて絶叫しているが、二人はスルー。
固く、固く二人は抱き合ったまま涙を流している。
暴君サウザーは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、
やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
サウザーはまだ倒れているシュウに手を差し伸べた。
微笑みながらその手を掴むシュウ。
「…んなこというかー!!
愛など、仁義など信じんわーーーー!!!(泣)」
チュドーン
後日聖帝の人間嫌いはますます強くなり、
その傍らに復讐の鬼となったユダがその参謀として収まったという。