やめろ、やめてくれ。
もう。これ以上。耐えられそうにない・・・。

イヤだ・・・。イヤだ・・・・・・。

見たくないんだ・・・・。


イヤだ。やめろ・・・。



イヤだー!!!!!







次の瞬間、僕は目覚めた。
頭はガンガンと痛み、喉はカラカラに渇ききっている。

ここはどこだろう・・・。
強張った身体を無理やり動かすと、周囲を確認する。

ああ。ここは僕の部屋。僕のベット・・・。


でも一体いつの間に。誰が・・・。





その時





がちゃり。


扉が開いた・・・・・・。




プチほうじ茶日記 
       父さん、ちょっと間違ってます 〜後日譚〜




リゾさん!?ど、どうしてここに?


・・・僕の看病を・・・。すみませんでした・・・。
え?ええ・・・。もう大丈夫です。
大分・・・良くなりました。
・・・あ、お水ですか?有難うございます、頂きます。もう喉がカラカラだったんで・・・。


・・・ご迷惑をおかけしました。随分とお世話になりまして・・・。
それにしても今日は一体何日ですか?
・・・えっ?もう5月9日・・・・。



・・・そう・・・ですか。


僕三日間も眠っていたんですね・・・。あの日から・・・・。






そ、そんな。リゾさんが謝られることなんかないですよ。
リゾさんの所為ではないのですから。
貴方の説明は間違ってもいなかったでしょうし、不足もしてなかったと思います。
なんせ、
あの父です。
どんなに正確な情報を与えられていても、きっと脳内で
180度変換してしまったのでしょう。
だから、どうか気になさらないで下さい。

僕も甘かったんです。
父の性格と傾向は把握していたつもりだったんです・・・。
どんなに恐ろしい出来事が待ち構えているのかと、覚悟を決めていた筈なんですが・・・。
恥ずかしいです。倒れてしまうなんて・・・。
まだまだ修行が足りませんよね・・・。





え・・・。あの日の顛末ですか・・・?
ど、どうして・・・。
・・・・・・・成る程・・・。あの日以来、父が行方不明に・・・。



・・・・きっとユダさんでしょうね・・・。ラオウさんも一枚噛んでるかもしれません・・・


いえ。別に裏切りとか造反とかそういったものではないんです。
原因はもっと
しょうもないことなんです・・・。





・・・そうですね。お話します。
リゾさんには・・・。
ええ、有難うございます。僕は大丈夫です。
それに他人に聞いて頂いた方が気もまぎれると思いますし・・・。







・・・・・始まりはベルの音だったんです。

扉を開けると、
南斗星軒のおじさんがそこに立っていたんです・・・。
おかもち
を持って・・・。
ええ、あの角っこの中華店の。そうです。あのおじさんです。

「毎度〜」って、ずかずかと入ってきてテーブルの上におかもちを置くと、
「これ、領収書で〜す」って長いレシートを渡してきましてね・・・。
「またよろしくお願いしま〜す」って出て行きましたよ・・・。





そうなんです。不思議に思われるでしょ?
父さんは中華料理より和食を好まれるほうだし。今までに出前なんかとった事ないんですよ?


だから僕も、何がなんだか分からなくて・・・。
もしかすると間違って配達されたのかもしれないと思って
中身を確認せずに、そのままにしてリビングに向かったんです。




なんか父は朝からリビングと庭を往復してまして、僕に全く立ち入らせてくれなかったので・・・。
扉越しに。
「父さん・・・。南斗星軒からなにか来てますが・・・」
そう尋ねると。

「そうか。ちょうど良いな。こちらも準備が出来た。
すまんがお茶を用意してきてくれ。一緒に食べよう」
普段と変わらぬ穏やかな父の声に・・・。


誤配送じゃなかったんだ・・・、と思いつつお茶をいれておかもちとともにリビングに入りました・・・。が・・・






ごとん

がしゃーん




手に持ってたお盆もおかもちも落としてしまいました・・・。
余りの光景に・・・。








なんだと思います?


正直余り思い出したくもないのですけどね・・・。
リビングのテーブルにですね・・・。
兜が飾ってあったんです。


いやいや、フツーの兜だったらそんな反応はしませんよ。
やっぱり僕も男ですからね、嬉しいと思いますよ、フツーならね・・・。



じゃあ、どんな兜かって・・・。

そうですね・・・。どう表現すればよいのでしょう。

とげとげがいっぱい付いていて、イノシシの牙みたいなのが両面についてて・・・。

仰々しいというか、重々しいっていうか。
どういえばいいか・・・。どういうべきか・・・・。




何も言えない僕を見て、してやったり!という様子で父は微笑んでました。

「苦労したんだぞ?これを借りるのは・・・。
まあトキが協力してくれたお陰で助かったがな・・・






その言葉が耳に飛び込んできた時の衝撃、決してお分かりにならないと思います。
そうなんです。アノ。北斗の長兄の兜だったんです。
前日にトキさん、北斗の次兄です、から宅急便が来てたのはソレだったんです。



嘘だ、そんな馬鹿な・・・。と精一杯否定しようにも・・・。


兜のふちの辺りに
ラオウ’s
って名前までご丁寧に彫ってあったら。

信じたくないけど、父の言葉を認めるしかないじゃないですか・・・・・・・・。




「トキも
邪魔だ邪魔だと言ってたのでな。喜んで貸してくれた。
どうだ、立派な兜だろう。嬉しかろう」



って言われても。



余りにもいかつい、禍々しささえ感じる兜を飾られても
嬉しくもなんともないじゃないですか!!
というか、
迷惑ですよ。大迷惑ですよ!!

新聞紙で作った兜のほうがなんぼか有り難味があるってもんです!!!!






はっ、すみません。少し興奮してしまって・・・。

その後・・・ですか?
ええ、父と仲良くちまきを食べました。中華ちまきを・・・。





・・・・。何も言わないで下さい。何も。お願いですから。

多分父の中ではちまき=中華ちまきしかなかったんだと・・・。
こどもの日に食べるちまきと、中華のちまきが別物って知らなかったんでしょう・・・。


おかもちの蓋を開けたとたん、流れ落ちてきたちまきの山には正直ビックリしましたが。
なんて言っても、先の兜に比べれば可愛いものですよ・・・。

「厳選したんだぞ!
各店のチラシを吟味し、価格を計算して、予算内に収まる分だけ買い込んだ!!
さあ、思う存分食べるがいい。そして大きな漢になるのだ!!」



ね?そんなこと言われたら、もう何も言えないってもんでしょ?







父には悪気はないんですよ。多分。
少し努力の方向性が間違っているだけで・・・。


「身長を測ってみよう」とか言い出して
逃げ出そうとする僕を柱にくくりつけ、
シュオオオオオ〜とか奇声を発しながら
僕の頭
すれすれに蹴りをかまして柱に印をつけるような父でも・・・。


突然鶏を僕の目の前で捌きだして、
(どっから用意したのか)うすと杵でおもちを作って、
鶏肉と餅を混ぜて、蒸して、皿に山盛りにして・・・。
「かしわ餅、一丁あがり!!!!」とぬかす父でも・・・。


菖蒲の花ではなく、
屏風を飾っているような父でも・・・。



僕にとってはたった一人の父ですから・・・。




え・・・。うすと杵を用意したのはリゾさんだったんですか?
鶏はフドウさんから・・・。
そうでしたか・・・。皆さんにご迷惑をおかけしてしまいましたね・・・。
いいえ、いいえ。そんなこと、リゾさんが気にしないで下さい。
どうか涙を拭ってください。僕は大丈夫ですから・・・。









落ち着かれましたか?良かった。
・・・ええっと。どこまでお話しましたっけ・・・。ああ。そうでしたね。


ラスボスが残ってましたね・・・。
え、そうです。こいのぼりです・・・・。フフフフフ・・・・。

全くあんなものが用意されるなんて・・・。
ししゃもで妥協すべきだったと痛切に思いますよ。
ええ、心の底から・・・。








疲労困憊の僕を引きずって、次に父が向かったのは庭で・・・。

そこにアレがあったのです・・・。




皐月晴れの空にはためく、紫色の吹流しが・・・・。



なんで吹流しOnly?なんで紫色??
真鯉は?緋鯉は?



もう僕の思考回路は停止寸前でした・・・。






「どうだ!!」とばかりに胸を張る父・・・。
そんなにふんぞり返られても困るのだけども、一応確認はしておかねば・・・・。


「なんですか?コレは?」


「何って、
こいのぼりに決まっているだろう。」

即答




「まあ、本物は手に入らなくてな・・・。
意外に値がはるし、一から作るにも時間はないし。
だが、要は
アレだ。こいのぼりとは魚類を模した布の飾りだろう。
だからユダのところから数枚布を拝借して作ってみた。
分かるか?切込みを7箇所に入れている。
これで足は8本見事タコになったぞ。」





(タコは魚類ではありません。軟体動物です・・・・。)
言葉に出す気力もなく・・・。

それよりも気になるコトが・・・・。






この色・・・。
この形・・・。
紐・・・。
そしてユダさんから借りてきたって・・・。もしかして・・・・・・。










「あの、父さん。コレはもともと何の布だったのですか・・・?」



恐る恐る尋ねると・・・


破顔一笑





「ユダのふんどしだ・・・・・」







次の瞬間、僕の視界が真っ暗になって・・・。



そして今に至るという訳です・・・・。











大きくため息をつく。
話しすぎて喉が痛い。
ついでに頭も痛くなってきた。あの光景を思い出して・・・。






僕もリゾさんもしばらくの間、全くの無言であった・・・。




窓から差し込む光が薄くなり、徐々に部屋が暗くなっていくまで。




どちらも口を開こうとはしなかった・・・・・・・。















「成る程、ユダ様が半狂乱になって駈けずりまわっていた理由が分かったぞ・・・」
ようやく、リゾさんが呟く。力なく・・・。


「それと北斗の長兄が、『返せ!!返さぬか!!!』って叫びながら道場に押し入った理由もな・・・」




ハハハハ、ハハ。ハハ・・・・、ハァ・・・・・・・



かすれた笑い声が薄暗い部屋に不気味に木霊した・・・。







なんだかリゾさんが一気に老け込んだような。
気のせいではない。
肩を落として、背筋を丸めて眉間にマラッカ海峡の如き深い皺を刻んでいる・・・。





ああ、この人も苦労してるんだなあ・・・。

年も、経験も、力も、胆力も、
僕とは比較にならない位備えてる方に対して不謹慎だけど・・・。
とてつもなく、親近感を抱いてしまった。








「それで、父は・・・・」


「知らん。別に今となっては探す気も起こらん。まあ、無事であろう・・・・。
・・・・・・そんなことよりも、君はゆっくりと身体を休めなさい。
それが何より一番大切なことだよ・・・。」





温かい言葉には弱りきっていた僕の心に優しく響き・・・

不覚にも涙が出そうになった・・・。



そんな僕の頭を、
リゾさんは優しく、労わるかのように撫でてくれた・・・。











「君も苦労するな。何かあったら、私で良かったら相談しなさい。
もし私がいないときは、ここに電話してみるがいい・・・」


帰り際に手渡された、折りたたまれた一片の紙。



リゾさんを見送った後、それを開けてみると・・・







子供の緊急ホットライン
悩んでないで、まず相談!
0120-XXX-XXXX









・・・・・・・
有難うございます、リゾさん・・・・・・。







彼の親切心に感謝しつつ、
零れ落ちた涙を拭うと・・・。



僕はその用紙を大切に引き出しに保管した・・・・。







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