「
5日後、5月5日は子供の日だそうだ」
庭で立ちすくむ僕の後ろから、のほほんとした父の声がした。
プチほうじ茶日記
父さん、ちょっと間違ってます 〜5月1日〜
「な、なんなんですか?父さん?コレは?」
腕からこぼれ落ちた洗濯物を拾い上げるのも忘れて、父に問いかける。
ああああ・・・。折角洗濯したのに。また洗いなおさないと・・・。
「うん、だから。5月5日は子供の日・・・」
「そうではなくて。それくらい僕知ってます。でもどうコレと繋がるのか・・・」
「シバ、せっかちだな。話は最後まで聞くものだぞ?」
少しだけ口の端を上げて微笑む父。
黙り込んでしまった僕にひとつ頷くと、再び口を開く。
「もともとこどもの日というのは、男児の健やかな成長を祝い、祈る風習らしい。
なんだったかな?丹波の節句とかなんとか。
人形を飾ったり、魚の飾り−こいのぼりと言うらしい−を吊り下げるらしい。
まあ、私も又聞きだから余り詳しくないのだが・・・」
確かにそんな風習があるというのは、村の老人から聞いたことがある。
ただそんな名前だったかどうかは・・・。なんだか微妙に間違っているような気がする・・・
でもここで突っ込んでよいものか・・・。
とりあえず僕は口をつぐむことに決め、一方父は話を続ける。
「それで私も早速実行してみたのだ。
余りたいしたモノは準備できなかったが、魚の飾りは比較的簡単に見つかってな。
どうした、そんなに驚いて?気に入ってくれたのか?
費用の点は気にするな。お前には色々苦労もかけてるし。
父親としてはこれくらいのことはしてやらねば、天国の母さんに叱られるからな・・・」
母さんは怒ったら怖いからなあ、ははははは・・・
にこやかに笑う父。
なるほど・・・・
状況は分かったけど。
理由も分かったけど。
微妙に喜べない・・・・。
だって・・・。だって・・・・。
洗濯竿の上に立ってるのは・・・
僕の目の前にあるのは・・・
プラスチックの棒に繋がったししゃも
費用は気にするなって、
ダイ○ーで一パック200円くらいで売られてるんだけど。
呆然とする僕、笑い続ける父を尻目に。
ししゃもは皐月晴れの空を窮屈そうに泳いでいた。
洗濯竿に縛り付けられて・・・。。
カラスにでも食われたのか、ところどころ食いちぎられた無残な姿をさらしながら・・・。
「父さん、お気持ちは嬉しいのですが、ちょっと違います」
折角の父の好意に水を差すのは気が引けたが、やはり言うことは言っておかねばならない。
それが尊敬する父にであっても。
というより、こんなこいのぼりもどき、嫌だ。
「しかし、魚だろう?同じようなものではないか?」
のほほん、と答える父。
「違います、父さん。全然違います。」
思わず語尾が荒くなってしまった。ああ、いけない。父さんには悪気はないんだ(多分)
「まあ、正確には鯉のぼりではないことは確かだが・・・。
しかし、鯉はなかなか手にはいらんくてなあ。
・・・・道場の裏の池の鯉はレイにあらかた捕り尽くされてしまったのだ。
こどもの日の話を聞いてすっ飛んでいったと思ったら、10分後には全て捕まえてた。
なんでも妹に、リアルこいのぼりを見せると張り切っていたよ・・・」
ああ、妹さん。お気の毒に・・・
そっと涙を拭うシバ。
串刺しされたコイタワーなんぞ見せられたら、結構なトラウマになるだろう・・・
例えそれが敬愛する兄からの贈り物であったとしても・・・。
それに比べると、まだししゃものほうがましかも・・・。
いや・・・・
・・・
違う!
違う!
違う!
違う!
違う!!
騙されるな、僕!!!!!
比較対象の設定が間違ってる。
あんな常識はずれで、礼儀もなってなくて、シスコンで、スケベな男の作り上げるこいのぼりを
基準にするのが間違ってる。
やはりここは譲れない・・・。
仮にも僕を祝ってくれる(であろう)イベントなんだ・・。
いい思い出にしたいじゃないか。
第一アレが5日間もつとは思えない。
鳥に食い荒らされて串だけが竿に残ってましたって言うオチか、
原型留めずグズグズに腐りましたって言う結果か、
ハエが大量発生しましたっていう結末しか考えられない。
ここは
仕切りなおしをお願いしよう・・・。
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