ただいま

その声と共に帰宅した父は、とても楽しげだった。




プチほうじ茶日記 
       ジョークは時と場合と相手を見て



「どうしたんですか、父さん。ずいぶんとご機嫌ですね・・・」

どっかりと椅子に腰掛けた父。

常の厳しい表情は消えうせ、浮かぶは微笑・・・。
何がおかしいのか、思い出し笑いまで始める始末。


・・・・・
・・・・・・・・・・
珍しい。実に珍しい。

いつもならば。

「あれほど婦女子の尻を触るなと言ってるのに・・・」
「日に焼けるから修行はせん!だの、ふざけたことを」
「ストーキングも大概にして欲しいものだ・・・」

「まだ年端もいかぬ訓練生相手にマジ切れするか?いい大人が」


全くあいつらときたら・・・・・



と、ため息をつきつつ、帰宅するのが常なのに・・・。



父の機嫌がよいのは勿論喜ぶべきことなのだろうが・・・。
鼻歌まで歌われた日にゃあ、ぶっちゃけ、不気味だ。キモイ。
日ごろのストレスで、遂にキレてしまったのでは?とまで思ってしまう。
しかし・・・。


「シバ、すまないがお茶を煎れてくれんか?」


当の本人は、僕の不安もなんのその。
にこやかに、満面の笑みで語りかけてきた。



「は、はい。すぐに。」

慌てて台所に向かいつつ、
『これは何があったか、なんとしても聞き出さないと!!!』と固く心に誓った。





いつもは胃薬と水のグラスを運んでいたトレイには、湯気の立つほうじ茶。

「うむ、美味い。」


ずずずっ、とお茶を啜る父。



「どうしたんですか、なにかよい事でも?」
恐る恐るたずねると、眼前に広がる父の微笑み。



「うむ、今朝お前から聞いた話を訓練終了後にふと思い出してな・・・」


うん?どのことだろうか?



「楽しそうなイベントだし、私もやってみたのだ・・・」



あ。なんか嫌な予感がする・・・・





硬直する僕に気づかず、話を進める父。


「ちょうどシンがいてな。早速試してみた。
『ユリアがお前を道場はずれの桜の木下で待ってたぞ』と言ってみたところ、
あいつ、すぐさま駆け出していったな。
いや〜、あれは早かった。とても早かった。
うん?まぁ確かにな。人の心を弄ぶのは宜しくない事だが、今日だし許されるだろう。
それにもともと望みなどないのだ。
諦めきれずに不毛なストーキングを続けるより、ガツンと真実を突きつけたほうが
シンにとっても幸せだろう。はっはっは・・・。」


父さん・・・。




「次にユダだが、あやつは最近UVケアとやらに凝っていたのを思い出してな。
道場の裏の池から集めた泥、それをビンに詰めてな。渡してやった。
最高級品の泥パックで日焼け後の肌の手入れに最適だと言ったら飛びついてきた。
はっはっは、いつ気づくかな?」


僕。胃が痛くなってきました・・・・




「レイか?あいつには
『今の時間は女性の特訓生が入浴中だ。』と言ってやったよ。
実際は、
長老方の入浴時間だったのだが。
バレて、絞られてないとよいのだがな・・・」


ばれるでしょ、絞られるでしょ。




「どうした。顔が蒼いぞ、シバ。
ああ、蒼いといえばサウザーだがな。あいつへが一番苦労した。
だが、あいつがかつて師と共に修行した地へと、

定期的に里帰りしてる
のを思い出してな。
『集中豪雨の煽りを受けて、近隣の洞窟から何から水浸しになってるらしいな』といったら。
血相変えて飛び出してな。
流石に気がとがめたが、真実を知った時ほっとするネタのほうが良いだろうし。
そうドラ○もんのしずかちゃんも言ってるのだ。まあ、大目に見てくれ。
『折角7分乾きの状態までいったのに・・・』とか何とか言って。
乾物でも作っているのだろうか、顔面蒼白だったぞ。お前にも見せたかった。」


もう、何も言えません・・・。




「それにしても、皆見事に引っかかってな。
笑いをこらえるのに必死だったのだ。
まぁ、少し気の毒だったが今日はそういった日なのであろう?
騙されるものが未熟ということだ・・・」


はっはっはっはっはっはっはっはっは




豪快に笑う父の姿を。

溢れ出る涙の妨害を抑え、
深く、固く。
瞼に焼き付けようと
僕は努力した。


明日には物言わぬ屍になってるかもしれないのだから・・・・・





壁にかけられたカレンダーは。
4月1日をさしていた。

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