「分かる、分かるぞ。トキ!!」

 いきなり手を握り締められる。



いや、そんなコト言われても。
手を握られても。
号泣されても・・・。

かなりドン引きしているトキを尻目に。

「貴方の言うとおり!!」
「全く最近の若者はなっちゃいない・・・」
「い、いや、年配のものでもなっちゃいないんだが・・・」


涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ブツブツブツブツ。




トキの脳内で、シュウを除く六聖拳メンバーの顔がフラッシュバックする。

ああ・・・。そうか。そういうことか・・・。


謎はすべて解けた。とどのつまり。


彼も苦労してるということか・・・。




ほうじ茶日記 Vol 13 
     
(愚痴を)吐かず、吐く、吐くとき、吐けば、吐け(Golden5段活用)

 


偶然の出会いから早や、数時間経過。


場所は未だ風呂場。

徳利の酒は既に干され。
アヒルちゃんは所有者の手から離れ、遠くに佇んでいる。
周囲に浮かぶは、エキスを出しふやけまくってるミカン。


そんな状況の中。
北斗次兄であるトキと、
南斗の一翼を担うシュウは。




純愛ストーカー男の迷走ぶりだの、

彼女以外アウトオブ眼中な恩知らずな弟のことだの、

シスコン男にまた飯をたかられたことだの、

不良の道、一直線なハーレー男の乱行だの、

化粧濃いオカマが今日も香水臭かっただの、

暴れん坊大将軍な長兄の様子だの、

干物Loveな精神年齢小学生並な同僚だの、

幼児虐待を素で行ってる爺さんだの。



彼らに対する愚痴やら毒を、
ここぞとばかりに
吐きまくっていた。





まっパで・・・。


異様な光景に、
風呂に入ってきた他の客は逃げ出し。
溺れてるんじゃないかと様子を見に来る仲居さんは青ざめ。

「お、お食事の用意が出来ましたが・・・」の声は見事にスルーされてしまい、
哀れ、カニは手をつけられぬまま・・・。


無数の星が天を飾り、月が姿を現しても猶。
延々と。散々と。長々と。

二人は会話に花を咲かせていた・・・。



ああ、コレほどまで遠慮なく愚痴ったのはいつ以来だっただろう・・・。

ため息をつきつつ、漠然と思う。



いつの間にか、弱音や愚痴を吐かなくなっていた。
道場の門をくぐったその時から。

責任ある地位に立ってからは更に。

他人をそしらず、愚痴も言わず、弱音も吐かず。

拳の道を志す者として。
己が背負う拳法に恥じぬ人間となるために・・・。


しかしそうは問屋が卸さなかった。


日々私の元に飛び込むは、苦情の山。

今回は何だ。
ストーカーか。セクハラか。猥褻物陳列罪か。それとも・・・
あああ、サウザー!
いい大人が小学生相手にマジ切れなんてするんじゃない。

酔っ払っての乱闘騒ぎだと〜。
いい加減年と立場を弁えろ!
兄としてラオウも言ってくれ。って無視するなー!
「ほっとけよ、トキ」って、ケンシロウまでなんだー!!


なんで私がいつもいつもいつもいつも・・・!!!!!


涙腺を押さえつつ、



「すみません。
ウチの子ヤンチャしまして。
いやいや、悪気は無いんですよ
(多分)

情けない台詞を吐き、頭を下げまくる毎日・・・。



悶々とした思いは決して外にでることなく(愚痴る機会と相手がいない)
ストレスのみが溜まる毎日(嗚呼、胃が痛くなってきた・・・)


あやつらの。
尻拭いしまくった今日までの辛く険しい日々。


だが。
今は。
決して一人ではないのだ。

同じ試練に対して、同じく戦う戦友(とも)がいる。
同じ境遇を語り合える仲間がいる。
同じ話題で盛り上がれる同士がいる。

それだけで、十分だ・・・。


涙を流しながら、二人の男は。

再び。

固く、固く。

互いの手を握り締めた・・・。


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