山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした、って訳ではないが。
風邪がいつまで経っても良くならないので
周囲の人間(Main シバ、リゾ。六聖拳メンバーは除く)に勧められ、
その養生に、一人で但馬の城○温泉へ出かけた。
ほうじ茶日記 Vol 11 湯治に行きました
まだ時間が早いせいか、私のほかに客はいないようだった。
いや。前言撤回だ。
露天風呂の片隅には、野生の猿が数匹湯を楽しんでいた。
長閑な光景に頬の筋肉が弛緩する。
「すまんな、私もお邪魔させてもらうぞ。」
通じるわけもないのだが、思わずそう言葉を漏らすと。
キキッ、と太い声(恐らくこの群れのボスからだろう)が応えた。
タイミングの良いその応答が
まるで「仕方ない、この新参者め。入るが良い」と言っているようで。
ぷっ。
思わず噴き出す。
ボス猿のでかい態度と鷹揚な鳴き声に、ある同僚の姿が脳裏にちらついた。
一人と数匹、広い浴場でほぼ貸切状態。
贅沢な気分を味わいつつ、湯舟にゆっくりと身を沈めた。
冬の気配を感じさせる風を頬に感じつつ、
少し冷えてきた肩や首元に湯をかけ、深く息を吐く。
うむ。極楽極楽。
少し熱いが心地よい。
すっかりリラックスモードのシュウ。
その左には黄色いアヒルちゃんのお風呂セット。
その右には朱塗りの盆が乳白色の湯の上に浮かび。
盆の上にはとっくりとおちょこ。
「南斗道場 入門者募集中!来たれ。若人!!!」
プリント入りのタオルをちょこんと頭にのせ、
上機嫌な彼が口ずさむは不朽の名曲。
いい湯だな(ア ハハン)
いい湯だな(ア ハハン)
湯気が天井から ポタリと背中に
つめてぇな(ア ハハン)
つめてぇな(ア ハハン)
ここは但馬の ○崎温泉♪
レイほどタケシではないが、
音階の外れた声が広い浴場に響き渡った。
その瞬間。
ぎゃー。ぎゃー。
バサバサバサ・・・
木立で羽根を休めていた野鳥が飛び去り。
うきききききぃいいいー
ぎゃっ、ぎゃっ
湯で赤くなっていた顔をなぜか青くして、風呂から逃げ去る猿の一群。
ジャイ●ンリサイタル第一幕を終えて、
シュウの周囲には生物はおらず。
うむ?行ってしまったか。
何故あのように急いで。湯あたりでも起こしたか。
まあ、よかろう。
落ちかけたタオルを再び頭の上に乗せる。
アヒルちゃんを縦横無尽に泳がせつつ、
程よい温度の日本酒をお猪口に注ぎ、渇いた喉を潤す。
流石、名湯、●崎の湯。
喉の調子も声の通りも良い。
さあ、二番いってみるか。
ジャイア●リサイタル第二幕が切って落とされた・・・。
いい湯だな(ア ハハン)
いい湯だな(ア ハハン)
湯気にかすんだ 白い人影
あの娘かな(ア ハハン)
あの娘かな(ア ハハン)
・・
草木が萎び、岩肌を覆う苔すらも枯れ始めたその時。
歌詞どおりに湯気にかすんだ白い人影が現れた。
何ゆえ、盲目のシュウにその人物の存在が確認できたか。
何故なら、現れた人物はシュウに劣らずの達人であったから。
圧倒的なオーラが浴場を満たす。
しかし。
決して攻撃的なものではなく。
そう。それは。
早春の日の出を思い出させる温かさ、
それでいて爽やかな、まるで夏の夜のように・・・。
秋の夕暮れ時のようで穏やかで、
そして冬の早朝を感じさせるの清冽さ・・・。
それでいて。
抑えていても隠し切れない闘気。
そう、そこには。
あの娘でも、白い恋人でもなく、偽者でもなく。
北斗の次兄、トキの姿があった。