ピピピッ



軽い電子音がさほど広くない部屋に響き渡る。


音を発したソレを見上げると


43℃


やはり風邪か。

軽く瞬きするとシュウは再び寝台に身を沈めた。


ほうじ茶日記 Vol 10 風邪は甘く見てはいけません 


予兆はあったのだ。

ここ数日間、2週間後に行われる他流試合の準備に忙殺されていたし。
それに伴い、後輩たちの稽古に夜遅くまで付き合っていた。
3時のティータイム、好物のほうじ茶もやたら苦く感じられていた。

が、まさかこの年になって風邪などひくとは。


まだまだ修行が足りんな・・・


布団の中で上半身を起こし、シバがつくってくれた生姜湯を渋々飲むシュウ。


2−3日はこのままかもしれないな。


滞っている仕事や目の前にまで迫った試合のことを考えると
頭痛が増したような気がした。


1時間ほど休んだ後、未だ熱の下がらない身をおして道場に向かおうとするシュウ。
彼を止めたのは息子であるシバだった。

這いながら扉に向かおうとする父親の前に仁王立ちした子供は、こう言ったのだ。


病人は寝ていてください。

こ、怖い。
わが子ながら恐ろしいまでの空気を醸し出す少年。


し、しかし。今仕事が色々と忙しくて。ちょっとだけでも様子を見に行くくらい・・・

だ・め・で・す!!!まだ熱があるんですよ。ドクターストップです!!!

いや、だが。私が行かないと、仕事が・・・

何のための同僚の方たちですか、後輩の方たちですか。
お父さんが行かなくても他の方が代わりにやってくださいます!!
いつも暇そうに、フラフラ、フラフラしている方たちに、
お父さんの苦労を少しは味わっていただく絶好のチャンスです!!!
大体あの人たちは
ユリア様をストーキングしたり
女湯に侵入したり
化粧品特売の為に仕事をほっぽり出したり
ちゃぶ台どかーんしたり・・・

仕事らしい仕事なんてしてないんですから!!!!少しはお灸を据えないと。

と・も・か・く!!!

今日は一日休んでいていただきます!!!!



あまりの剣幕にただうなずく事しか出来なかった。


ああ、日が沈んでいく。


道場は大丈夫だろうか。
短気で血の気が多い奴らばかりだし、ケンカなど起きていないだろうか。
リハクは、リゾは胃に穴を開けていないだろうか・・・。

寝台の中で悶々と悩むシュウ。

一向に休養になっていない。



するとそこにノックの音が。

どうぞ。


開いた扉の前には、
シバと、

六聖拳の仲間が揃っていた。


お茶でも持ってきますね。

思いも寄らない奴らが見舞いに来たことがよほど嬉しかったのか。
嬉々として台所に駆け込むシバ。


寝台の前には


見舞いのケーキを頬張るレイ
その隣でどこか嬉しそうなユダ
苦い顔のサウザー
固い表情のシン
がいた。



すまんな、皆。忙しい時に体調など崩して休んでしまって。
しかも見舞いにまで・・・



気にするな、仲間ではないか。シュウ、早く良くなれよ!!
ケーキを食べ終えて、プリンに手を出すレイ

有難う、レイ。やはりお前はイイヤツだな。
・・・しかしそれは私への見舞いの品ではないのか?



フン、こんな辛気臭いところに来たくはなかったが、レイが行くと言ったからな・・・
くねくねしながら椅子をレイにちかづけていくユダ。

すまんな、ユダ。しかし今日も香水くさいな。
う・・・。頭が痛くなってきたぞ。ハハハ・・・



まったく、日ごろの鍛錬不足だな。風邪など。六聖拳の風上にも置けんわ。
サイドテーブルに長い足を投げ出し、王様オーラを醸し出すサウザー

ぐぉ、相変わらず手厳しいな。サウザー。
だが事実故に言い返す言葉もない



こうなった上は仕方なかろう。それよりもシュウ、これを。
ずっしりと重い封筒を手渡される。

フォロー、有難う。シン。うん?これはなんだ?
とりあえず、後でシバに見てもらおうと枕元に置く。




10分ほど談笑した後、彼らは去っていった。

その後に残されたものは、

レイが食べ散らかしたケーキの包み、プリンのカップ、果物の皮
ユダの強烈な香水の香り
サウザーの足跡のついたサイドテーブル
シンの残した封筒


そして

シバが入れてくれた飲み物のカップが4つ。


片づけをしながら、シバはブツブツと呟いてる。

途切れ途切れに、
「正しい見舞いのあり方じゃない・・・」だの
「いや、でもあの人たちだから、仕方ない。耐えろ、僕・・・」だの聞こえる。


うん?どうした?シバ?

思わず声をかけると、

なんでもないです。


その声が少し疲れていたのは私の気のせいだろうか・・・


部屋を片付けたシバ。
粥を作ろうと台所に向かおうとする息子を呼び止める。


シンから渡された封筒。これを見てもらうために。



それをあけると、そこには書類の束が・・・


これは?えーと。
こっちは『宿泊先の手配』 こっちは『メンバーの選定』
・・・ええっと。なんですか?


ああ、それは、他流試合の準備書類か。
うむ、先日処理した時から不足はない様だな(←つまり減ってないってこと)
わざわざ親切にここまで持ってきてくれたのか。


書類をぱらぱらとめくる私。
絶句するシバ。


どうしたのかと、目を向けると、


最愛の息子は、本日一番の迫力でもってこう宣言した。



もう、もう二度と!!
あの人たちにこの場に踏み入れさせません!!!!



その後。
泣きながら、奴らとの絶縁を求めるシバをなだめるのに
かなりの労力を要したのは言うまでもない。



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