バチコーン


右ストレート




懐かしい。
彼女との出会いと同じシチュエーションだったのだ・・・


ほうじ茶日記 Vol 9 親近感わきました 


「・・し・・っかり・・・気・・・・・!!!」
「大・・・ですか?シュ・・・・様・・・」

 

耳元で叫ばれる大音響の言葉・言葉・言葉・・・

嗚呼、五月蝿い

「起き・・・・・・下さい。お気を確かに・・・」

 

揺さぶられる頭、肩



・・放っておいてくれ。彼女の姿を少しでも捉えていたいのだ・・・

今は亡き マイハニーを。




「起きて下さいー!!お願い起きて!っつかー起きろー!!!!


はい。起きました。私。


周囲に群がるヒト、ひと、人。

店の店長
花屋の主人
魚屋の兄さん
肉屋の店主

そして、

見事なストレートを繰り出した彼女の姿が

 


「すみませんでした。本当にすみませんでした。」


絶え間なく頭を下げ、謝罪するは年若い女性。
レイやシンよりは幾ばくか若いだろう。
凛としたその雰囲気に、狼狽する声に、あの時の彼女のことを思い出した。

 

「いや・・・、気にすることはない。私は大丈夫だ。」

客観的に見れば、私は南斗六聖拳のシュウ。
彼女は一女性、しかも若い。どう考えても20代いってない。

そんな一般人のバンチなど軽く避けれるはず。
くらっても問題なかったはずだ。

それなのにしばらくの間意識を飛ばしていたようだ、私は。



(全く、油断したというか。まだまだ未熟だな私は)




「それよりも、貴方は大丈夫か?奴らは・・・?」

その問いに答えたのは、彼女ではなく周囲の人間だった。

「奴ら、シュウさんがぶっ倒れたの見て、泡食って逃げてしまいましたよ」
「全く、このお嬢さんときたら。見かけに寄らず・・・」
「ねーちゃん、格好良かったぜー!!」


褒めちぎる周囲の人々
照れる彼女
その腰にしがみつきながらもどこか誇らしげな少年
そして未だに横たわる私

うむ。
結局私は、なんの役にも立たなかった、ということか?
こういう状況をなんと言うのだろう?

骨折り損の草臥れ儲け?
湯を沸かして水にする?
労あって功無し?
しんどが得?

さまざまな慣用句が頭をよぎるシュウ。



しかし




「あの。本当にすみませんでした。大丈夫ですか?」
と心配そうな言葉に思考を止める。

「いや、私なら大丈夫だ。貴方たちは、怪我はないか?」

「大丈夫だよ、おじちゃん。有難う。」
「は、はい。大丈夫です。お陰さまで」

いや、有難うも、お陰様も何も、私は何もやっていないのだが・・・


まあ、良かった。
子供も女性も無事のようだし、結果オーライだ。


ようやく身を起こそうとするが、ふらついてなかなか足が定まらない。

そんな自分の身体を支えてくれたのは彼女だった。



「本当にごめんなさい。助けに来てくださった恩人に、私なんてことを・・・」
「いや、貴方が気にすることはない。」
「でも・・・」
「どうか謝らないでくれ。私なら大丈夫だ。
 それに貴方たちにも怪我はないならばそれで良い」
「・・・・・・・・・・・・・、本当に有難うございました」

 

 

何度も恐縮しつつ、礼を述べるその兄弟を村はずれまで送っていった。


「もう日が大分傾いている。気をつけて帰るのだぞ。」

「うん、有難うね。おじちゃん!!」

「今日は大変ご迷惑をおかけしました。また後日改めてお詫びに・・・」

「そんな気遣いは無用だ。それよりも私の名はシュウという。
 キミたちの名を聞かせてくれるか?」

あっけに取られたような二人。

次の瞬間、

「僕、コウって言います!!」

元気よく応えたのは弟のほうだった。

「私はマミヤと申します」

続いて応える彼女。

 

どこかわが妻に似た彼女に
どこかわが息子に似た少年に

未だ痛む頬を優しく撫でつつ。

親近感を持った私であった。



Novel TOPへ