ほうじ茶日記 Vol 7 出会いは彗星のように 


なんだろう、あの人ごみは

帰宅途中。
見慣れた街の、歩きなれた道。

家路にと急ぐシュウは通りの真ん中に人ごみを見つけた。

聞こえるは。

男の乱暴な声
下品な笑い声
怯える幼子の泣き声
抵抗する若い女性の声
周囲の同情と戸惑いと非難を含んだ声・・・


なんなのだ、一体。

人ごみの中に見知った気配を感じて、シュウは歩を進める。



「どうしたのだ、何があった」

「あ、これはシュウさん。良いところに」

応えるは、行きつけの店の主人。
いつも来店のたびに数万円の売り上げに貢献してくれる(90%はレイが食った)
シュウの顔を主人も同じく記憶していたようで。

声を潜めてシュウに説明する。

「いやね。あの子が、あの男の子なんですが。
 走っていて奴らにぶつかってしまったんですわ。
 それで奴らが因縁を付け出してね・・・」



・・・
全く大人が子供に対してなんという馬鹿馬鹿しいことを。



「それで、子供のほうは謝っているのに。散々ごねりだして・・・。
 そこにあの子のお姉さんが現れて一緒に謝罪しているのに、
 奴ら、いちゃもんを付け続けているのですよ・・・。
 先ほど見かねた若い衆が制止したのですが、聞く耳を持たず。
 挙句の果てには殴り倒す始末で。全く・・・」

己の眉間に皺が寄るのをシュウは感じた。

店主の肩に、ポンッと手を置くと、人ごみを掻き分け前に進む。



シュウさんだ。

・・・シュウ様よ。

良かった・・




周囲の人間がシュウに気づき、一斉に安堵のため息をつく。

ザザザッ。


あの哀れな男の子を、気の毒な女性を、
乱暴者の手から解放してくれるであろうシュウを通す為、
人ごみが二つに分かれ、一本の道がシュウの前に開けた。

近づくにつれ、彼らのやり取りがよりはっきりとシュウの耳に入ってくる。

「あー。全く痛ぇぜ。骨が折れちまったかも知れねえな」

「全く。アニキになんてことしやがる。このガキが!!!」

「だからこうして謝っているではありませんか。
 大声を出すのは止めて下さい。弟が怯えているではないですか・・・」

「ケッ、アニキに怪我させといて、言うことがそれかよ。
 アニキ、どうしますか。一本くらい、いっときますか?」

「待ちな、てめぇら・・・。
 おぅ、ねーちゃん。なかなか別嬪さんじゃねーか。
 なあ、俺はこう見えて優しい男なんだ。
 もしねーちゃんが俺の手当てをしてくれるって言うのなら、
 弟さんはこのまま許してやってもいいぜ・・・」

「なっ・・・!!?」

「そ、そりゃーいいぜ。おう女。さあ、一緒に来いや!!」

「や、止めて下さい!!」

「後悔はさせねーよ。いい思いさせてやるぜ・・・?」

「・・・いやっ!!離して。手を離してください!!」

下卑た笑い。
抵抗する女性。
その腰にしがみついて泣きじゃくる幼子。

全く。
シュウは内心ため息をついた。

どこのどいつか知らんが、これはきつくお灸を据えてやる必要がありそうだ。

拳を握りつつ、どんどんと進むシュウ。

「へっへっへー。いいだろー。
 そんなに怖がらなくてもいいって。子兎ちゃん」

「やっ!手を・・・」




「そこまでだ!!」

シュウが男と腕を掴まれている若い女性の間に割り込もうとした時・・・

「手を・・・、手を・・・。
離せって言ってんでしょー!!!!!!

繰り出される見事な右ストレート

次の瞬間

シュウは頬に衝撃を感じ、意識を飛ばした。




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