4.今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。
  それでもなお、良いことをしなさい。 

The good you do today will be forgotten tomorrow.
Do good anyway.


Vol. 4 Don't judge a book by its cover


ああ、面白くねえ。


道場に行けば、勿論長兄の姿はなく。
いるのは、辛気臭い兄者に口うるさいジジイに可愛げもクソもねぇ弟。


兄者も四六時中座禅組んでて、一体何が楽しいんだか。
外出したかと思えば、一日中病人の世話。
馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえ。

あのジジイも、年寄りらしく日向で猫でもじゃらしてればいいのに
人の顔を見るなり毎度毎度説教。
そろそろ引退しやがれ、クソジジイ。

そしてくそ真面目に修行に取り組んでいやがるケンシロウ。
ハンッ!バカじゃねーの。
幾ら頑張っても弟が兄を押し退けて伝承者になれる可能性はゼロなんだよ。

 

ああ、うぜぇ。全てがつまらねえ。

憂さ晴らしに、女でも抱きに行くかと足を動かした時・・・。


向こうから一つの小さな影が見えた。


コツ、コツ、コツ・・・。
杖で道を叩きながら、こちらに来るのはまだ幼い少年。
その歩みは止まることなく、こちらに向かって進んでくる。

俺様の姿がみえねーのか、この糞ガキ。

怒鳴りつけようかとも思ったが、そんなことしなくでも寸前で避けるだろう。
進路を変えることなく、そのまま進む。

さてと・・・。
今日はどの女を抱くか。
あの黒髪の女にするか、なかなかいい体していたぜ。
それとも金髪に・・・。

脳内でスライドショーを展開させ、舌なめずりをする。


が。


どしん。

 からんからん。

 軽い衝撃と無機質な音に、妄想劇場は強制終了となった。


「どこ見てんだ、このガキが。」

楽しい楽しい時間を邪魔された。
ヤローならぶっ飛ばしているところだが、
流石にガキ相手に拳を振るうほど落ちぶれちゃいねぇ。
が、むかつきは収まらず、足元で転がっているガキを睨みつける。

「すみません。ごめんなさい。」


ん?
おかしい。
俺に向けた目は開いているが、どこか焦点があってない。


そうか、このガキ・・・。

「なんだ、テメー、目が見えないのか。」

俺の問に震えながら小さく俯く。

「・・・ケッ。」

こんなガキ一匹、構ってられっか。

足取りも荒くその場を離れようとした。

が。

依然としてガキは地面にはいつくばったまま。
さわさわと地面を撫でている。
その手は何時まで経っても側に転がっている杖を見つけようとはしない。

くそっ。




「ホレ」

ぼすん。

乾いた音が響く。

俺が拾い上げ、そして放り投げた杖は、ガキの手にすっぽりと収まった。


しかし、杖を投げつけられた相手はといえば。

見えねえ目を大きく開き、きょとんとしている。
何時まで経っても立ち上がろうとしないガキに思わず苛つく。

「何やってんだ、ソレがおめーの探してたもんだろうがよ。
ぐずぐずしてんじゃねぇ。そんなトコに転がってたら邪魔なんだよ!!」


「は、はいっ!!!」
慌てて杖を握り締め、立ち上がるガキ。


「フンッ」
足を進めようとした時。

「あ、あの。」
背後から弱弱しい声が。

「なんだ、まだ何かあんのか?テメー。」


眉を寄せながら、振り向けばそこには。

満面の笑みが。

「あ、有難うございました。助かりました!!!」


その笑顔と言葉に、瞬時たじろぎ。
そして、

「ケッ!!!」

逃げるようにその場を去った。


「アニキ、なんだか嬉しそうですね。何かあったんですか?」
「女ですかい?それとも何かいい獲物が見つかったので・・・?」


翌日。

俺は手下を引き連れて酒を飲んでいた。
まだ日も高い時刻。
常ならば人の往来は多い場所だが、今日は人っ子一人近寄ろうともしない。

「うるせえ、つまらねー邪推してんじゃねぇ。ぶっ飛ばされてーのか。」

いつもより早いペースで酒をあおる俺を見て、なにか勘違いしやがったようだ。
俺がジロリと睨みつけると、両手をブンブンと振り、

「す、すみませんでした!!!」
と逃げていった。


『嬉しそう』だぁ〜?
別にたいした意味はねえ。酒を飲んでるときに仏頂面でいる奴がいるか?


それにしても・・・。

今日の酒が旨え。染み渡るぜ。

一気にグラスを空ける。

アルコールがもたらす快楽に、暫し酔った。


 「何見てやがる。」

酔いに身を委ねていた俺は、上品とは言い難い大声に現実に戻された。

数人の手下どもが酒瓶片手におぼつかない足取りで進んでいく。
その先には、
ガキとジジイが。

あれは・・・。


「いえ、何でもありません。」
「テメー、俺らをずっとみてやがっただろう。」
「なんか文句あんのか、ジジイ。」

いい加減酔っ払っているのだろう。
甚振る様な口調。
楽しげな声。
飛び交う罵声。


ちっ!!

 「止めな」

低い声に、眼光に。
奴らは一気に酔いが冷めたようだ。

「つまらねーことで、折角の酒を台無しにするんじゃねーよ。」

おずおずとテーブルに戻る奴らに一瞥をくれると、
続いて立ち竦んでいる二人連れに目を向ける。


「テメーらも目障りだ。さっさと消えろ」


金縛りから解けたように、慌ててガキの手を引いて離れようとするジジイ。
手が白くなるほどジジイの袖を握り締め、不安げなガキ。

その表情には。

『恐怖』の二文字しか存在してなかった。


空虚な思いが俺に襲い掛かる。



なんだと言うのだ。
 何かを期待していたとでも言うのか。
  何かを求めていたとでも言うのか。
   何かを望んでいたとでも言うのか。



馬鹿馬鹿しい。

 らしくない感傷を振りほどき、
乱暴にボトルの中身をグラスにぶちまけると、一気に俺はグラスを空けた。

先ほどまで旨く感じていた酒が、やたら苦かった。 








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