「そうか・・・・。死んだか・・・・」




「ハッ。拳王には一矢報いることは叶いませんでしたが
五車星、『風』の拳士として恥じることない
立派な、ご立派な最期で・・・・最期でいらっしゃいました!!!」



一語一語を噛み締めるようにして言葉を紡ぐ男。
その傍らでは別の男が溢れ出す涙を拭おうともせずむせび泣いていた。







            
グッド・バイ





「立派な最期、ねえ・・・」




血を吐くような悲痛な叫びも、俺の耳には寒々しく響くだけ。





アホか。全く。
何が立派なもんか。死んだら終わりだ。
生きてこその人生、生きてこそのこの世ではないか。






あいつは幾つだったか。確か20を少し超えただけだっただろう。
まだまだこれからって時に。
まだまだやりたいこともあっただろうに。


それなのに。


何で死んだ。
あまりに無茶な、聞けばほとんど特攻に近かったという。






はっ!!

主、とかいうヤツの為か。

それとも『世界の平和』とやらの為か。



全く

どこのどなた様の為だか知らねーが、
「この世紀末の世に光を」的な理由の為だかなんだかどうでもいいが



テメー自身が捨て駒になる必要があったっていうのか?














ったく、忌々しい。












閉じていた瞼を視界に映るは
満面に「悲しみ」のプレートを貼り付けたこれまた辛気臭い男ども・・・



あ~。ヤダヤダ。ますます暗くなっちまうぜ・・・。










重苦しい空気に耐え切れず

部屋の片隅
堆く積まれた食料の山(近隣の悪党どもからかっぱらった戦利品だ)に足を向ける




ゴソゴソゴソ・・・


話の途中、突然何やら探し始めた俺を不思議そうに眺める奴らの視線、それをスルーして



ゴソゴソゴソゴソ・・・・・・




「あ、あった。あった」



漸くお目当てのものを見つけ出し、つかみ上げる。







「おう!!あんたらもお疲れさんだったな。
頭が死んじまって大変な時にわざわざ俺にまで連絡をしてくるなんてな・・・」





「クソ暑い中、こんなトコまでやって来て、喉も乾いただろう。
どうだ?軽く一杯?」





軽い口調で、軽やかな歩調で、ウイスキーの瓶を軽く一振り。


ニィッ。と笑いを浮かべた俺を見て。















「ジュウザ様。あ、貴方は・・!!!」


俺に掴みかかろうとする若い方のヤツを




「よせっ!!止めんか!!!」

もひとりのおっさんが阻む。




「んだよ、カリカリすんなよ。カルシウム足りてねーな。」

肩を竦める




依然として険しい目をしている片割れを抑えながら、
おっさん(苦労性だな、オイ)が苦虫を噛み潰したかのような表情で吐き出すように答えた。


「ご無礼を。しかし我々は遠慮させていただきます・・・」







「そっか?じゃ、俺は好きにさせてもらうぜ?」




ヤツらからの無言の非難をスルーして、





ポンッ



トクットクットクットクッ・・・・



適当なグラスを掴むと、琥珀色の液体を一気に注ぎ込んだ。











そう言えば碌に酒も飲めねーヤツだったな。













グラスを傾けながら想いを昔日にと飛ばす。








ヒューイ。



口うるさいヤツだった。

人の顔を見ると、まず説教をかますヤツだった。

『てめー、俺の方が年上なんだぞ!少しは敬え!!』 
『年上というだけで敬われると思っているのか?
中身が伴ってないと、人からの敬意は得られんぞ。
ましてやお前のように己の責務から逃げているようなヤツは敬意の対象にもならん・・・』

そんな、涼しい顔をして毒を吐く漢だった。







しかし偉そうなことをほざく一方で


女の話で、
『なんだ、お前。まだ女とヤったことはねーのか!』 
俺のからかいに、

『そ、そ、そのようなことはみだりに他人に話すことではない!!!』
茹蛸になったり。





『こんな美味いモノのめねーなんて、お子様だな、所詮』
俺の挑発に

『馬鹿にするな~!!!!』
と勢い良くウイスキー(しかも超薄めのヤツ)を空けて、
次の瞬間床にダイブしたり。










全く・・・・。

まだ早いだろ・・・・。

死んじまうにはよ・・・・・・・・。





理屈ばっかりで、やっぱりお前はバカヤロウだよ・・・・。
女の味もしらねーまま、
美味い酒も飲まないまま
逝っちまうとはな・・・。









「ジュウザ様。」





オッサンの声が俺を過去から現実の世界へと引き戻す。



グラスを揺らしながら先を促すと、真剣な面持ちで叫んだ。


「ジュウザ様!!伏して、伏してお願い申し上げます。
どうか、我らにご協力を。我らが将をお救いくださいませ。
我らには貴方様のお力が必要なのです。」



「断る。嫌だっつってんだろ。しつけーよ。他を当たれ、他を」




「そこを何とか・・・」





「くどい」




涙ながらに説得する男たち。
そりゃこいつらもヒューイを失って大変だろうが、その穴埋めを俺に求めるのはお門違いだ。
第一俺にはそんな気は微塵もねえ。



「ヒューイ様の仇を・・・・。

「へえええ?仇ねえ・・・・.。
あいつは一拳士として、己でそれを選択して、戦って死んでったンだろ?
全ては納得の上さ。
あいつも俺に仇を討ってくれとかなんて望んでねーよ。」




「し、しかし。ヒューイ様は仰ってました。
『大丈夫だ。ジュウザは必ず来る。まもなくだ』と断言を・・・」




「何~?ヒューイがぁ?」




「はい、拳王との戦いの前に。確かに。
こうも仰いました。『あいつは必ず動く!!』と」








「ヒューイが・・・・」


「どうか、どうか。ジュウザ様。
ヒューイ様の想いをお酌みとり下さい。
そして我らの願いを・・、どうか。どうかお聞き入れください・・!!!」











涙ながらに訴えても。






はっきり言って無駄だよ・・・・。





そりゃヒューイはいい奴だったさ。
嫌いか好きかと問われたら、間違いなく後者だ。
気色悪いから、絶対口にはださねーけど・・・。







でも。

それでも・・・・。








ヤツが死んだと聞いても。



俺は何も感じない。俺は動かない。










あの時から俺の心は死んだんだ。。




世界がどうなろうが、誰がくたばろうが。
俺には知ったこっちゃねえ・・・。


誰かの為に拳を振るうなんてことはありえねえ・・・。










もう誰も、俺を動かすことは出来ない・・・。

























すまんな・・・。ヒューイよ。


地平線を赤く焦がす夕日を眺めつつ新たな一杯をグラスに注ぎ、呟いた。





「お前()では()を動かせんさ・・・・」





タイトルは大好きな作家である太宰の小説からです。
別タイトルは『北風と太陽 雲バージョン』(笑)



以下妄想を綴ります。


昔々。北風と雲と、太陽がいました。
大地を煌々と照らし、全てを包み込んでくれる暖かい太陽
北風も雲もそんな太陽が大好きでした。

しかし太陽が選んだのは、夜空に輝く北斗の星だったのです。

それに絶望した雲は悲しみの余り、太陽から離れる途(孤独)を選びました。
北風は尚、太陽の傍らに付き添いました。

ある時大きな嵐が太陽を覆い隠そうとしました。
北風は仲間達と共に必死に嵐の進行を阻もうとしましたが無理でした。
そこで困った彼らは雲に助けを求めました。
でもどんなに必死に頑張っても、力いっぱい風を起こしても
心を閉ざした雲をピクリとも動かすことは出来ませんでした。

しかし太陽が暗黒の嵐に呑まれそうになった時のことです。

太陽の暖かさに触れた雲は
漸く動きました。

そして
太陽の輝きが損なわれぬよう嵐にと立ち向かったのでした。







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