ここで
私は死ぬの?
両親や弟が眠ってる村から、遥か離れたこの場所で?
私をいつも助けてくれた村の人達も
親代わりに私を慈しんでくれた長老も
生意気な少年も
あの少女も
優しく可憐なあの女性も
私が愛した男性も
そして
私を愛してる
そう言ってくれた彼も。
誰も
いない
誰一人も私を知らない
私も誰一人も知らない
この町で?
ただ恐れるものは
何とか逃げ出そうと、力を振り絞ってみるものの
身体は固く鉄柱に縛り付けられていて、
どう足掻いてもその束縛から抜け出せない。
そんな私の様子をみて。
気の毒そうに目を伏せる町の住人たち。
薄い笑みを浮かべる大男。
男の膝の上から、濁った目でこちらを見ている犬。
奇声を発しながら、騒ぎ続ける手下達・・・。
その内の一人がどこからか処刑台を引っ張ってくると、
楽しそうにレバーを握り締める。
こんなところで・・・。
「イ〜ヒャハハハハ〜!!」
男の下卑た笑いに。
これまでか、と固く目を閉じたとき。
「それならお前が試してはどうだ?」
肩越しに聞こえる声
え・・・?
慌てて目を開けると、そこにはケンの姿。そして・・・
レイ・・・・・・。
ここにいる筈のない彼の姿に、
幻影を見ているのではないかと思ってしまう。
しかし
縄を解く彼の指
ふらつく身体を支える彼の腕
私を見る彼の瞳
それらすべてが、目の前の人物が現実だということを教えてくれた。
・・・・・・来てくれたの。
深い安堵と言いようのない幸福に包まれる
・・・でも。
レイ、貴方・・・。
彼はあの拳王の攻撃を受け、耐え難い苦痛に苛まれている筈。
村からこの町まで比較的近いとは言え、結構な距離があるのに。
私なんかのために、傷だらけの身をおして来てくれたというの?
いくらケンが一緒にいたとはいえ・・・。
彼の手助けを少しでもしたくて。
彼の苦痛を少しでも和らげて上げたくて
でも結局私は彼を苦しめた・・・。
ごめんなさい
謝罪の言葉を口にしようとした時。
「バカな・・・。俺なんかのためにこんな・・・」
暖かくたくましいレイの腕が私を包んだ
優しく、だけれどもしっかりと私を包む腕。
人目も憚らず、ケンの目の前であっても。
今までの彼とは思えないその行動に。
驚き、焦り、慌てたが・・・。
その腕の。
暖かさに
優しさに
心地よさに
抗うことは出来ず、身を委ねた・・・。
肩に、背に、腕に、頭に、頬に。
優しく触れ、傷口を確かめ、血を拭うレイの指。
まるで彼自身が傷を負ったかのような、辛い表情で。
ああ・・・。大丈夫よ、レイ。
貴方が気にすることなど何一つない。
これは私の浅はかさが、力量不足が招いたこと。
それにこんなの、怪我のうちにも入らない。
だからお願い。
そんな悲しそうな顔をしないで
そんな優しい瞳で見つめないで
そんな暖かい腕で私を包まないで
壊れ物のように私を守らないで
しかし、
そんな私の願いと逆に、ますます腕の拘束を強めるレイ。
まるで世界のすべてのモノから私を守ろうとするかのごとく・・・。
レイが私を守ろうとすればするほど、愛すればするほど
私は思い知らされる。
私は、私には。
レイから愛される資格などないのだということを・・・
嗚呼
彼の赤い瞳が私を射抜く。
やめて
お願い
こんな汚れた私を
どうか
もうこれ以上・・・・
「マミヤ・・・」
揺れるレイの瞳、震える指。
「レイ。私を見つめないで・・・」