豪奢な、贅をつくした広い宮殿の中を
颯爽と歩く一人の漢がいた・・・・。
壊れつつある世界の中で
鼻息も荒く、手に手に武器を携えて
「KING万歳!」と叫んでいた部下達。
近隣の町から連れてきた
俺の、彼女の身の回りの世話をする侍女ども。
町を襲い、村を滅ぼし集めた
きらびやかな光を放つ宝石、ドレス。
貯蓄庫を襲撃し、民衆から搾り取った
山海の珍味、芳醇な香りを醸す美酒。
つい数ヶ月前までは宮殿に溢れかえっていた者、物、もの、モノ・・・・
それが今では・・・・・
「下らん」
語気も荒く、言い捨てる。
どうでも良い。最早どうでも良い。
逃げ出せ。逃げ出せ。鼠ども。
沈みかけた船から、必死に逃げ出すが良い。
お前らなど、俺には必要ない。
ただ一人。彼女さえいてくれたら
それだけで
俺は
それだけで
良かったのだ・・・・・・・・
ギィィィィ
宮殿の最上階。一際美しく飾られた部屋。バルコニーにと続く重厚な扉を開ければ。
そこには彼女が・・・・。
ユリア
俺の最愛の・・・・・・
「聞いたか。ケンシロウがこちらに向っているらしい」
速度を緩め、息を整えつつ。
俺はゆっくりと彼女の元へと足を進める。
「バカな漢だ。折角あの時永らえた命をよほど散らしたいらしい」
辺りを支配する静寂。
耳に聞こえるは、俺自身の足音。そして俺の心音のみ。
「気になるか?」
答えはない。
ただただ。彼女は無表情に佇んでいる。
「そうだろう。ケンシロウなどは過去の虚像。お前にとって最早何者でもない。
お前が愛する漢はただ一人。俺だ。この俺。シンだ。
かつてお前が誓ったように、お前は俺に一生付いていく定めなのだ・・・」
如何に言葉を投げつけようとも。
返事は返ってこない。返って来るはずもない。
当然だ。
コレはただのまやかし。ただのモノ。
如何に姿かたちをそっくりに模そうとも。
俺の心は決して満たされない。
もはや。
俺が愛した女は
どこにもいない
どこにも。
襲い掛かる
様々な感情
怒り、憎しみ、嫉妬、悲しみ、絶望、そして狂気
あらゆる負の感情が、
俺の肉体を襲い
俺の精神を蝕み
俺の心を侵食していく・・・・。
いっそ・・・・
いっそのこと・・・・・。
このまま狂えたら・・・・・・・・。
このまま狂気に支配されたら・・・・。
どれ程楽なものか・・・・・・・・・・。
「KING様!右城門に不審者が!!浸入してきます!!!」
意識を飛ばしていた俺の鼓膜に響き渡る声。
来たか・・・・
マントを翻し立ち上がる。
さあ、茶番劇の始まりだ
「行って来る」
伝わる筈もない言葉を「彼女」にかける
女々しいことよ
そう自嘲しながらも
どこか
心のどこかで
返事が返ってくるのを
望んでいる自分がいた
だが奇跡は起きることなく。
己の口元がひどく歪むのを感じながら
俺は目の前の扉を開けた。