俺の名はレイ。南斗水鳥拳のレイ。
上(南斗の長老)の指令により、この世紀末を生きる人間達の生態を目下調査中だ。
空港で警備員をやったり、温泉町で卓球を楽しんだり、八代○紀の「舟唄」を口ずさんだり・・・
果てにはアキバで、胸キュン☆・「萌え〜」ってなったりと。
様々な場所で様々な経験をしてきた俺に課せられた次の指令は・・・。
ある村での田植えの調査であった・・・。
BOSS 世紀末Ver.
この村の住人は、古来から伝わる田植と呼ばれる方法で、食物を作り出している。
当初は「こんなの楽勝だ」と思ったものだったが、これがなかなか、極めて重労働だった・・・
当初は慣れぬ田植え作業に腰を痛めてしまった俺ではあったが。
一旦コツを掴めば容易いもの・・・。
この村に滞在して一週間と経たぬうちに、
しかし・・・。
勝利の美酒を味わおうとした正にその時、
俺の前に立ち塞がったのは、
コイツ・・・。
うぬぅ。今日の作業が始まって早二時間が経とうというのに。
その速度とパワーは全く衰えることなく、
順調に、確実に、リズミカルに、そして黙々と作業をこなしている・・・。
悔しいが認めよう。
あいつは俺の二歩も三歩も上をいっている・・・。
申し分のないパワー、滑らかな動き、絶え間なく蠢動するその巨体・・・。
あいつの馬力と機動力はたいしたものだ・・・・。
しかもあれほどの俊敏性を持ちながら泥の中での切り返しの鮮やかさはどうだ!!
しかも、どうやら俺とあいつとでは相性も悪いらしい。
というのも、もともと南斗水鳥拳の真髄は、その華麗な足さばきにある。
それが泥に埋もれてしまっては、俺は例えるなら翼をもがれた水鳥・・・。
対して、華麗に泥田の中でターンする
泥の中でもがき苦しむ俺を尻目にスーイスイと動き回る姿は、敵ながら天晴れ・・・。
しかし感心ばかりしてもいられず、何とかヤツに対抗しようと、
水面をばしゃ〜んってジャンプして、方向転換を試みたのだが、
「折角植えた苗を踏み潰す気か!!!」
大激怒の村人から説教を喰らってしまった。
こうして俺は・・・。
生涯初の敗北を味わったのであった。
しかし、俺も誇り高き南斗の漢。
このまま敗北することは許されんのだ!!!
必ず、必ず。お前を俺の手で倒してやる!!!
他の追随許さぬ圧倒的パワーを持つ我がライバルよ!
今日こそお前と決着を付けよう・・・。
一人くらい、お前に勝つ漢がいてもいい・・・・。
固い決意を胸に。
俺は戦場へと赴く・・・。
ふがあああああああああ〜〜!!!!
奇声を発しつつ、凄まじい気迫で技、もとい腕を繰り出すレイ・・・。
余りのスピードに真空波が巻き起こり、レイ自身の身体を切り刻んでいく・・・。
しかしそれに怯むこともなく。
レイはその両手に握り締めた青々しい苗の束を、確実にそして迅速に植え込んでいく・・・。
まさに鬼気迫るといった様子・・・。
今までに(修行時代含む)、これほどまで真剣に真面目に物事に取りくむ彼がいただろうか。
否、いない。
黙々と田植機(クボタ最新式・ウェルスターマッ○ス)と並ぶスピードで
田植するレイの姿に。
「す・・・すげえ・・・・・」
村人は感嘆のため息をつく。
そして・・・。
「ほう。なかなかやるのう・・・」
村人達の背後からひっそりと眺めている老人の姿があった・・・。
今日もヤツに勝てなかった・・・・・。
ガクリ、と肩を落とし帰宅の途に着くレイ。
途中まではいい勝負だった。いや、むしろリードさえしていたのだ。
しかし魔のターンに差し掛かった時
鮮やかに回転を決めた
レイは無様にも泥に足をとられてしまい・・・。
勝敗は決したのであった・・・・。
クソッ。クソッ!クソッ!!
俺はこの程度の漢だったとでもいうのか・・・。
ここが俺の限界だったというのか・・・。
この上はもう南斗の道場に戻るとするか・・・。
思わず吐き出してしまった弱音に愕然とする。
が。
それもありだ・・・。
と考え出す・・・。
そもそも今回の使命は「田植え」調査であって「田植え勝負」ではない。
この任務に就いてからかなりの時が経った。
実家に残してきた妹のことも気になるし・・・。
そう言えば
ストレスで胃に穴が開いてないといいのだが・・・。
一旦芽生えた望郷の念は消しがたく・・・。
よし!!もう、戻るか・・・・。
潔いほどの決断力でそう呟くと。
村のゲートに足を向けた・・。
が・・・。
「若いの、茶でもどうじゃ・・・」
絶妙のタイミングで声をかけられた・・・・・・・。
その誘いに内心辟易する。
しかし仕方ない、ここは誘いに乗るとしよう。
なんていっても相手はこの村の準責任者、長老だ。
これまで世話になった恩義もあるし、突然出て行くのも失礼であろう・・・・。
少し不機嫌になりつつも・・・
長老の家の軒先で渋々ながら休息をとっていると・・・。
「どうぞ・・・」
コトリ・・・
差し出された一本のコーヒー缶。
見るとそこには・・・。
極上の別嬪が・・・。
少し気の強そうな瞳も、整った容姿も、亜麻色の髪も、太い二の腕も、
ボン☆キュッ☆ボンなナイスバディも・・・・。
全てが俺の好みにジャストミート!!!
先ほどまで俺を覆っていた不機嫌さは三百光年先へと飛び去っていった。
ともすればにやけそうになる頬を引き締めつつ、慌てて差し出された缶コーヒーを受け取る。
ソレを手の中で転がせつつ、彼女をチラ見する俺・・・。
それにしても不覚!!
しかし、誰だ、一体。
長老の家にいると言うことは、親戚縁者のものか・・・?
もしや、長老の娘・・・?いや、似ていないし・・・。
孫・・・ではないよな。流石に。姪か?
思考の波に、俺が身を委ねようとしたその時・・・。
突然、長老の口から衝撃の発言が飛び出した・・・。
「おぬし、
あとつぎにならんか?」
atotsugi・・・・
ATOTSUGI・・・・・
アトツギ・・・・・・
あとつぎ・・・・・
あと‐つぎ【跡継(ぎ)/後継(ぎ)】
1 家督を引き継ぐこと。また、その人。跡取り。世継ぎ。後嗣(こうし)。
2
師の学問や芸などを引き継ぐこと。また、その人。後継者。
3 前任者に続いて、その地位に就くこと。また、その人。後任。
大辞林より
な、なにぃ!!!!!
予想だにしなかった提案に、一時脳細胞が活動を停止した・・・。
ば、馬鹿な!!!俺には 『調査』という崇高な目的と使命があるのだ・・・。
それをこのような場所で、そのような理由で捨て去るわけにはいかんのだ・・・。
それにもうこの村には用はない・・・・。立ち去ろうとしていた俺を後継ぎだと・・・?
しかし・・・。
しかし・・・。
一般的に後継ぎというと・・・
たいていの場合、息子に恵まれなかった者が、相手を娘などと結婚させて
親戚関係を築き上げることによって結びつきを強め、
そして自身の跡を継がせるといったパターンが多いのではなかったか・・・?
昼ドラ、歴史モノではそういう展開が結構多かったハズだ・・・。
と、なると・・・
俺の相手は・・・・。もしや。この・・・・。
彼女・・・・・・・・?
ガツーン!!!!!
「後継ぎとして結婚」、「調査の続行」に体当たり☆
このまま、この村で彼女と一緒になって暮らすのも悪くはないな・・・・
いや、駄目だ!理性を持て!南斗水鳥拳、義の星の漢、レイよ・・・。
一時の迷いで、衝動で、己の目的を、使命を忘れてはいかん!!!!
いや・・・。しかし・・・・・。
俺が目を泳がせると・・・。
その先には彼女の姿が・・・・。
交差する視線と視線・・・。
次の瞬間・・・・
ばっ!!!
彼女は慌てて目を逸らす。
恥ずかしそうに・・・
少し頬を赤らめて・・・・。
・・・・はい。
「調査の続行」という選択肢・・・。
たった今粉々に砕け散りました・・・。
調査?使命?掟?宿命?六星拳としての責務?南斗の長老?親友?
知らんな、そんなこたぁ・・・・。
もう俺の脳内で駆け巡るは妄想のみ。
ふっ、後継ぎか、了解した。
さて結婚式はいつがいいだろうか。
次の大安吉日はいつだったかな?招待客は何人位にしようか・・・・。
白無垢がいいか?それとも純白のウェディングドレスか・・・?
新婚旅行はどこに行こう。
なんだったら新婚旅行など行かずとも良い。
この村にこのまま滞在して
みっちりと子作りに励むパターンでも俺は一向に構わん。
田んぼと畑以外何もない田舎の村だが・・・。
お前と共にいる場所こそ俺にとってのパラダイス。
文句など言わん!!!
勿論、お前にもどこかに行きたいならそれでいい。
パリか?ニューヨークか?奇跡の村か?
どこへでも連れて行くぞ・・・。
お前が望むなら
宇宙の果てまでイカせてやるさ・・・・!!!
そう・・・。
じっくりと・・・。
ねっちりと・・・。
この俺の腕の中でな・・・。
脳内で展開される楽しい未来予想図に、鼻の穴から勢い良く血が飛び出る。
突然の流血に。
「ほっほっほっほ、若いのぅ・・・」と穏やかに微笑む長老と
「・・・・・・!!!?????」と言葉を失うマミヤ・・・。
二人からの視線を感じ、慌てて血を手の甲で拭い去る。
そして。
プシュッ!!
缶コーヒーのプルタブを一気にあけると、目線よりも少し高い角度まで持ち上る。
そして、心からの台詞を呟いた・・・・・・・。
「素晴らしきこの世界に・・・・」
「乾杯!!!」
一気に飲んだコーヒーが器官に入り、レイがもがき苦しんだのはこのすぐの話・・・。
あとがき:
18888(ひゃ〜はっはっは)Getされたぴんたんさんからのリク。
レイマミ、ラブコメ、季節柄、「田植え」とか「耕作」ネタでvvって・・・。
ご希望に沿えたとは思いませんが、こんなトコでご容赦を・・・。