3月14日、それは俗に言うホワイトデー。
本命の彼女からチョコをもらった男性は、
心からのプレゼント共に二人で永久の愛を確かめ合う聖なる日。
一方お義理でもらった哀れな方々は、
不本意なお返しを購入する為、諭吉を財布から旅立たせる涙の別れの日。
この村でも、同じような光景が随所に見受けられていた・・・。
WhiteDayは計画的に
「お、おい。レイ。分かってんだろうな?」
「うむ。抜かりない」
スチャッ
北斗でありがちな効果音をバックに立ち上がるは、南斗水鳥拳、義の星の漢、レイ。
自信に満ち溢れたその表情とは対照的に。
傍らに寄り添う少年の顔には、
不安
の二文字が浮かんでいた・・・・
事の発端は一昨日のこと。
「レイ~。お~い、生きてっか~?って、なんだよ、こりゃ!!!!」
メディスンシティーから退院、というより、
黄泉の国から奇跡の生還を遂げたレイ。
その後も食事も取ろうとせずに、トイレと寝台を往復する日々が続いているらしい。
『レイのヤツ、まだ生きてるかな~?』、と
未だ屋内に閉じこもってる彼を見舞うべく、ノックもせず部屋に入り込んだ少年-バット-は
広い寝台を占領している雑誌の山に絶句した。
「おお、バットか。うむ。お陰さまで大分体調も回復した。」
フッ、と常のクールな微笑で返されても・・・
そんな台詞を吐かれても・・・
げっそり頬がこけた顔を向けられて、説得力ゼロ・・・
サイドテーブルに載っている、手がつけられていない粥の碗と薬の山・・・
彼の胃腸が復活するのは、未だ時を要するらしい・・・。
そんなやつれきったレイの姿に同情するも、
『ああ、俺。命拾いした。逃げておいて大正解だったぜ・・・・・』
と内心深く安堵するバット。
誰もが己の身が、一番大事だということで・・・・。
ところで・・・。
「なんなんだよ、レイ。これは・・・」
好奇心を抑えようともせず、レイに問いかける。
「ん?ああ。明後日は3月14日。世間で言うホワイトデーであろう。
マミヤにお返ししようと思うのだが、女への贈り物とはなかなか難しいものでな・・・。
アイリとマミヤでは趣味も異なるだろうから、参考に、と思ってな」
クイっと指差す先には
通販○活にベルメ○ン、Peach Jones、フェリ○モ、ニッセ○・・・
通販カタログの山
それぞれページを折られて無造作に積み上げられていた。
「ま、まさかとは思うけど、マミヤさんに?」
「他に誰にというのだ?」
至極フツーに聞き返されて、ウッと言葉に詰まるバット。
「でも、レイ。アレだぜ?貰った(というか食わされた)のは・・・?」
「ああ、そうだ」
断言ですか。スゴイデスネ、オニーサン。
「アレ食っただけで、もう十分だと思うんだけど。わざわざお返しなんかしなくても・・。あ・・・・」
げ、流石に言い過ぎたか。まずった・・・・。
すっと、俺に目を向けるレイ。
拳骨くらいとんで来るかな・・・。
思わず身をすくませ、俯く俺の肩をレイはその大きな手で握り締める。
「お前の言わんとするところは、分かる。俺もあの時は死ぬかと思った。
しかし・・・・。
クソのようなものでも、ヘドロでも、マグマでも、あからさまに毒だとわかるような代物でも。
例えるなら、基準値の2万倍の農薬が入ってる餃子であったとしても。
賞味期限が切れた生和菓子であったとしても。
雨水・泥水で洗われた生肉であったとしても。
愛する女が作ったものならば・・・。
美味しく頂くのが、愛というもの・・・」
その言葉に弾かれたように顔を上げると、眼前に広がるはレイの微笑み。
とても穏やかで、優しげで、そして幸せそうだった。
「バット、覚えておけ。
愛する女の幸せを願ってこそ、真の漢というものだ・・・!!!」
すげえ。
カッコいい。
大人だ。
なんか何気にひでぇ台詞が入ってるけど。
悠然と微笑むレイの後ろに後光が差している。
俺もいつかこんな漢になれるだろうか。
こんな風に人を愛せる漢に。
さっきまでつまンねーことをゴチャゴチャ言ってた自分が。
急にガキッぽく思えて。
慌てて視線を逸らすと、近くにあったカタログをひとつ掴みあげる。
「仕方ねーな、俺も協力してやるよ」
可能な限りの素っ気無い口調でもって。
ぺらぺらと乱暴にページをめくる。
赤くなった頬は隠せただろうか・・・・
「ああ、第三者の意見も聞きたい・・・。二つまで絞ったのだが、なかなか決められなくてな・・・」
「ん~。どれどれ・・・・。しゃ~ね~な~。ここは俺様があり難いアドバイスを・・・。っ!!!!」
レイが指差すページの先には。
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
下着?
「ピンクのティーバックとこの赤のサイドが紐の分と最後まで迷ったのだがな。どちらが良いだろうか」
マミヤには赤が似合うが、ピンクも良いと思うのだ・・・。
ブツブツと呟くレイの声だけが部屋に木霊した・・・
「違う!!ぜってー違う!!!
大体下着を贈るってなんなんだよ!!意味深過ぎ!第一もっと他の選択肢があるだろ?」
「他のモノ・・・」
しばしの沈黙・・・。
レイが考え込んでる間に、俺は他のカタログを確認する。
折り目のついたページを見ると・・・・。
・・・ああ。駄目だ。コイツ、下着しかチェックしてねえ・・・・。
涙が出てきそうだ。俺のさっきの感動を返せ・・・・。
しばし考え込んでいたレイは、ポンっと手を打つ。
「ならば、俺のぬいぐるみや、俺の着せ替え人形、もしくは俺の等身大抱き枕なんかはどうだ?」
「アホか!!!!
なんでそんな爛れた選択肢しか頭に思いつかねーんだよ!!!!」
思わず叫ぶバットだったが、
「アイリは喜んでいたぞ・・・」
続くレイの発言に撃沈。
このシスコン兄貴がぁ!!との突っ込みをする余力は、彼に残されていなかった。
黙り込んでしまったバットを尻目に、レイは自説を述べる。
「しかし、マミヤはぬいぐるみや人形は喜ばんだろうしな。
それに抱き枕など、この俺自身がいれば不要!!!
その点、下着ならなんら問題がない。これなら置き場に困ることもないし、
何より実用的だ。間違いなく使ってもらえるからな。」
微妙な発言はスルーするとして。
確かにマミヤさんはぬいぐるみもらって喜ぶタイプではない。
でも・・・
だからって・・・。
下着、しかもパンティー(笑)を贈るなんて~~~!!
心の中で絶叫しているバットの耳に・・・。
「なにより俺も楽しめるからな・・・」
レイ、あんた、明日の太陽を拝めねーよ・・・・・
鼻の下が伸びきったレイの姿を見て、少年は決意した。
俺がこの哀れな漢(バカ)の命を救ってやろうと・・・。
涙ながらに・・・・
「ほんっとーに、本当に大丈夫なんだろうな~?」
「ああ、心配するな。」
心配するっつーの!!!するなっつー方がムリだろ!!!
心の中で毒づきながら、レイと共に歩みを進めるバット。
向かうはレイの最愛の女性。
一ヶ月前、凄まじいブツで南斗聖拳の一人をKOしたマミヤのもとへ。
「ちゃんとアクセサリーにしたんだろうな?」
「くどいぞ。」
少しムッとした顔で答えるレイ。軽くバットをバットを睨みつけて・・・。
てめー、命の恩人(であるだろう)俺様に向かって、なんつー言い草と行動だっ!!
そう思うも、彼はぐっとこらえる。
流石に幼少時から伊達には苦労してきていない。
この二日間、大変だったのだ。
起こりうる流血の惨事を回避すべく・・・
「マミヤはアクセサリーなんか付けんだろう。やはり下着のほうが・・・」
としつこく、そう、本当にしつこく主張するレイを。
「いや、アクセサリーのほうが一般的に受けいいし~。嬉しいんじゃない?やっぱりさ~。
これでも、常に身に着けられるわけじゃん。
ほら、マミヤさんも「レイから貰ったんだ~」って皆に自慢できるわけだし。
下着だったらそうはいかないべ?
一応アレでもマミヤさん、女の人だしさ~。アクセサリー贈られて(流石に)嬉しくないわけはないだろ~。」
もう必死だった。かなり必死だった。
ここで自分が彼を止めなければ、間違いなく血の雨が降ることになるのは明らかだったから。
これまでの実例で、切れたマミヤの恐ろしさを嫌というほど身にしみて知っていたから・・・。
被害の拡大を防ぐ前に、まず防止から。
決戦の時は来た。
近づいてきた二人。
レイとバットという、少し奇妙な組み合わせに心持ち眦をあげる。
すっと、マミヤの元に歩を進めるレイ・・・・。
『頼むぜ・・・・レイ』
心の底から、バットは願った。祈った。
このイベントが、3月14日が無事終了しますようにと。
「マミヤ・・・。昨日のバレンタインでは・・・・・・・・・・・・・・・・・ウマイチョコを有難う。
これは気持ちばかりのお返しだ。受け取ってもらえるとありがたい。」
きょとん、として様子のマミヤさんだったが、次の瞬間には、ぱぁっと顔を綻ばせる。
その笑顔は、まるで大輪の花が咲いたかのような。
ああ、レイだってぞっこんになるわけだよ・・・
惚れた女のあんな笑顔を見せられれば、男冥利に尽きると言うものだろう。
その代償として、恐ろしい物体を食う羽目になっても・・・
「開けてもいい?」
可愛らしく小首を傾げてレイに尋ねるマミヤ
「ああ・・・気に入るといいんだが・・・」
クールは装ってるものの、鼻の下を伸ばしているレイが答える。
バットの存在は完全に忘れ去られている。まさに Out of 眼中。
ちえっ。なんだかな~。
軽く舌打しながらも、バットの内心は穏やかな気持ちで一杯だった。
辛く、哀しい生き様を送って来た二人。
彼らがお互いのパートナーを見つけて、今幸せでいるのだ。
文句などつけれるはずもないではないか。
アクセサリー買ったってレイも言ってたし。
なんかイイ雰囲気だし。
大丈夫か、もう・・・・。
お邪魔虫は退散するとするか・・・
子供心にも二人に気を遣い、扉の元に足を進めた、その時・・・。
「な!!?こ、これは!!!」
マミヤさんの言葉で思わず振り返る。
箱の中、幾重にも包装紙に包まれたそのプレゼント・・・
え、嘘だろ?まさか・・・?
瞬きを繰り返し、目を擦るが、何度見返しても・・・・
あれは・・・
メリケンサック・・・・・・
あ、アホか この男。
何でよりによってメリケンサック。
もっと他にあるだろうよ、ネックレスとか指輪とかイヤリングとか・・・・・
何でよりによってメリケンサック。
そりゃ、マミヤさんにはお似合いかもしれないけど・・・・。
何でよりによってメリケンサック。
バレンタインのお返しにメリケンサック・・・・。
俺は思わず天を仰いだ。
ああ、これが夢だったらどんなに幸せだろうか・・・・。
しかしそんな願いは叶うはずもなく。
目を向けると。
ワナワナワナワナ・・・・
ああ、マミヤさんが小刻みに揺れている。
もう、駄目だ。この世紀末の世に、アンゴルモアの大王が降臨した・・・
レイ!!!
せめてあんたの骨は拾ってやるよ・・・。
目頭を指で押さえたとき
「あ、有難う。これ、ずっと欲しかったの!!」
・・・
ハイ?
「色々探してたんだけど、どうしても見つからなくって
このタイプの製品は市場にはもう出回ってないって聞いて。半ば諦めていたの!!
嬉しい!本当に嬉しい!!」
「喜んでもらえて光栄だ・・・」
おーい。ちょっと、お姉さん?
「凄い、本物だわ!!レイ、ありがとう」
箱から取り出して、さっそく利き手に装着するマミヤさん。
それを幸せそうに眺めているレイ。
もしもーし。お二人さん??
「しかも軽量で耐久性にも優れたチタン性!!
その上、拳にかかる負担を減らしてくれる衝撃軽減クッション付き!!!素敵!!」
子供のようにはしゃぐマミヤさん。
ああ、笑顔が眩しいぜ・・・・・・
「高かったでしょう?」
「フッ、下らんことを気に病むな。・・・お前のこの白魚のような手が・・・」
はしゃぐマミヤの手を取り、そっと唇を寄せるレイ。
「万が一でも傷つくようなことがあってはならんからな。」
でた・・・。必殺斜め45度の流し目!!どんな女もこれでイチコロだぜ・・・。ははははは・・・・・
「あ。ありがとう。レイ。」
頬を赤らめながら礼を述べるマミヤさん・・・
「ど、どうかしら?」
「ああ、やはりその色はお前によく似合う。チタンの輝きもお前の前ではくすんでしまうな・・・・」
「いやだ、レイ。褒めすぎよ・・・」
「そんなことはない、既に俺のハートは鷲掴みされ、破壊寸前だ・・・」
破壊してるのはあんたの脳細胞だよ・・・
「そんな、恥ずかしい・・・」
もうっ、とか言ってぼすぼすレイの胸に向かって、鉄拳を繰り出すマミヤさん。
照れ隠しのつもりだろうが、傍からは攻撃してるとしか見えない。
「真実だ・・・」
流石は南斗水鳥拳伝承者。
常人ならば悶絶するマミヤさんのパンチ(メリケンサックつき)を喰らっても涼しい顔。
「レイ・・・」
「マミヤ・・・」
甘ーい空気がその場を支配する。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こぉんの・・・・・・
バカップルがっ!!!!!!!
いちゃいちゃする二人をおいて
一生やってろ
とバットはその場を立ち去った